装着タイヤは225/55R18サイズの横浜ゴム「アドバンdB V552」。静粛性の高さに関して各方面から高評価を得ているコンフォート志向のタイヤだが、山岳路ではサスペンションの踏ん張りが強まるような領域でもよく粘り、強い雨が降る高速道路などでは高い排水性を発揮するなど、動的なパフォーマンスも良いものだった。

 このように素晴らしい仕上がりだったZR-Vの走りと乗り心地だが、これには“クロスオーバーSUVとして”という条件が付く。ベースのシビックe:HEVも長距離ロードテストを行ったことがあるが、ハイバランスぶりは特別なサスペンションが与えられたフォルクスワーゲン「ゴルフ8 R-Rine」と肩を並べるくらいのグローバルトップランナー級で、ZR-Vといえどもとうてい及ぶところではなかった。

 世界的にSUVが幅を利かせているが、低車高モデルには低重心、軽量・省資源、空気抵抗の小ささなどさまざまな優位点がある。もう少し多様性が保たれてもいいのではないかという思いも抱いた。

動力性能
気持ち良いエンジンサウンド

 次にパワートレイン。ホンダは2013年の「アコードハイブリッド」以来、エンジンを主に発電に用い、走行の大半を駆動用電気モーターのパワーでまかなう2モーター式ハイブリッドを展開してきた。当初は「i-MMD」と呼んでいたが、20年春の現行第4世代「フィット」のデビュー時、「e:HEV(イーエイチイーブイ)」にリネーム。現在はその呼び名に統一している。

 ZR-Vのe:HEVは、最高熱効率41%をうたう改良型2リットル直噴4気筒エンジンと、最高出力135kW(184馬力)の電気モーター「H4」を組み合わせたものだ。エンジンの熱効率とは、ガソリンや軽油などを燃やして得られた熱のうちどのくらいを運動エネルギーに変えられたかを表す指標。もちろん数字が高いほうがより効率が高く、同じパワーを出したときの燃料消費量は少なくて済む。

 この41%という数値は、トップランナーのトヨタ自動車をキャッチアップする水準だ。もっとも、中国のBYDが6月、市販車に46%という驚異的な効率のエンジンを搭載するなど内燃機関を巡る戦いは激化する一方である。ホンダの新エンジンもあくまでマイルストーンのひとつに過ぎない。

 さて、エンジンを大幅更新したZR-V e:HEVのパフォーマンスだが、動力性能については184馬力というパワーから連想されるような速さを示すわけではない。GPSメーターを使用して測った0-100km/h(メーター読み104km/h)加速タイムは8.8秒だった。

 筆者は過去、電気モーターのパワー自体は同じで車重も近い旧型アコードe:HEVも、同様の手法で加速タイムを計測したことがあり、実測値は7秒3だった。これだけの差が生じた原因は、最近のホンダ車が静止状態から30~40km/hあたりまでフルパワーを出さない制御を行っているフシがあること。ZR-Vも高速道路の本線車道への合流や登坂車線での追い越し時の加速力は9秒をちょっと切るくらいというパワーのクルマとはレベルが違っていた。実際の走行においては十二分の速力を持ち合わせている。

 このパワートレインの気持ち良いところは何と言ってもエンジンサウンド。普段は大人しいが、峠道の登り区間などスロットルの踏み込み量が大きくなると“コオォーン”という感じの硬質でスポーティな咆哮を上げる。

 加速度が大きい時には変速機付きのクルマが2速、3速とシフトアップしていくのを模した制御が行われるが、その切れ味が非常に鋭い。CVTの疑似有段変速のようなナマクラな感じではなく、トルクコンバーター直結型のATやデュアルクラッチATのようだった。ハイブリッドは減速時に回生を行うためシフトダウンのような動きは当然ないが、かりにそれがあったとしたらAT車と勘違いするくらいのナチュラルさであった。

 発電用エンジンをこのように動かすのは効率面では無駄が出るギミックであり、筆者は元来あまり好きではないのだが、まるで一級のスポーツATのように加速度が完全に一定のまま回転だけがピシピシと合っていくフィールには不覚にもちょっと萌えてしまった。

 駆動系でもう一点興味深かったのはAWD。ハイブリッドカーの多くは後輪にも電気モーターを設けて電動AWDとすることが多いのに対し、ZR-Vは前輪アクスルからビスカスカップリングを介したプロペラシャフトで機械的に後輪にパワーを伝える古典的な機械式AWDである。

 このビスカスカップリングAWDは通常は前輪だけで駆動し、必要に応じて後輪に力を伝えるというイメージがあるが、それは昔の話。インパネ内の駆動力メーターを見るにフルタイムAWDとして機能していた。

 FWDでは長距離試乗を行っていないので断言はできないが、山岳路をちょっと爽快に走る程度のレベルでもコーナリング姿勢は違うものと推察された。

 また、試乗中に幾度か悪天候に見舞われたが、片輪が水たまりを踏んだり横風を食らったりした時に直進を乱されにくいのも、AWDの恩恵と思われた。