居住感、アメニティ
ホンダのエンジニア陣のこだわりは…

 前編で述べたように、ZR-Vは荷室容量、シートアレンジについてはほどほどに見切り、キャビンの居住性に全振りしたパッケージングを持っている。こと、人が乗って移動するという点については大変得点の高いクルマだった。

 まずは室内へのアクセス性。ホンダのエンジニア陣は実用車のドア開口部の設計に異常にこだわる傾向があり、実用性を崩してスタイリングに振るという芸当ができない。ZR-Vは全高が1620mmとSUVとしてはロールーフであることを特徴としているが、前席の座面高が低く設定されているため、乗降時に頭をくぐらせるような動作は最小限ですむ。この点についてまるで配慮のないSUVも散見される中、この気遣いは見事だった。

 車内のスペースは前後席とも十分に豊かで、4名が長距離を苦も無く移動できるだけのゆとりがあった。シートの長距離ドライブ耐性は前席については十分以上に高かった。確認はしていないが、骨格はおそらくシビックと共通。クッション厚はたっぷりとしており、体圧分散や路面からの衝撃吸収は素晴らしいものがあった。

 旧世代シビックはスポーツグレードの「タイプR」を除いてショルダーサポートが甘く、コーナリングGがかかったときに上半身がブレやすいという弱点があったが、現行世代では完全解消していた。ZR-Vもそのシートバック形状を踏襲しており、滑りにくい表皮素材とあいまってドライブ中の体の軸線のブレは非常に少なかった。これも疲労軽減に一役買ったものと思われた。

 後席は連続で100kmほどしか乗車しておらず、自信を持ってレビューを書けるほど体感していないが、前席ほどの優秀性はないのではないかと推察された。ただし前席と同様、滑りにくいシートバック表皮とささやかながらショルダーを適切にサポートする形状を持っており、クラス標準は十分クリアしているだろう。

 インテリアデザインはダッシュボードについてはシビックと同じテイストとしつつ、全体としては曲面を多用したオーガニックテイスト。別に高級な素材を奢っているわけではないが、隅々まで隙なくデザインされており、そのことが上質感を醸していた。惜しむらくは意匠性を重視するあまり収納が不足気味で、かつ配置もあまり使い勝手のよいものではなかった。

 内装色はブラックのみ。色彩は好みがあるので良し悪しは問わないが、個人的にはせっかくカジュアル色の強い仕立てなのだから明るい内装やバーガンディなどがあってもいいのではないかと思った。ただ、この黒の色調、質感は悪いものではない。ホンダは灰色や黒の内装色の質感を出すのが伝統的にあまり上手でなかったが、現行シビックあたりから突然そのへんが上手くなった。ナイス調色である。

 試乗車の「Z」グレードにはJBLの12スピーカーオーディオが付く。標準装着系のオーディオとしては高品位で、長旅の途中で耳を楽しませるには十分すぎるほどだった。難点は重低音に対するドアのビビり対策が若干ではあるが甘いこと。静粛性の高い車内にパワフルなシステムを置くのだから、もう一歩こだわってほしかった。