産業界でも、パワハラによって組織崩壊した例は後を絶たない。例えば、過去にユニクロ店舗で発生したパワハラ事件(ファーストリテイリング事件)では、店長からの暴行や上司の暴言が問題となり、最終的には裁判にまで発展した。このようなパワハラは、長期的な経営に深刻なダメージを与えるのである。

 大きな社会問題となっているのを受けて、パワハラを扱う産業心理学の研究が、多数登場するようになっている。今回紹介したほかにも例えば、津野香奈美著「パワーハラスメントが起こる個人的要因と組織的要因」(2024年、『産業精神保健』誌掲載)では、厚労省での研究成果に基づき、職場にコミュニケーションが少なかったり、残業が多かったり、業績が悪かったり、従業員間でのからかいが日常的であったりといった、ストレスがたまりそれがはけ口として行動に起こされやすい場であるほど、パワハラが発生しやすいことが明らかになっている。

 津野氏の研究が伝えるのは、つまるところ、パワハラはある程度まで発生しやすい条件が明らかなのだから、職場環境の改善で予防できるということでもある。職場の崩壊を防ぎたければ、パワハラを属人的な問題とせず、全社を挙げて対策をすべきなのだ。