「退屈だからすること」だけの
生活になっていないか

 定年後に後悔する人の共通点、それは現役時代に「主体性をもたずに過ごしてきた人」といえると思います。

 人の時間の過ごし方は「やらなければならないこと」「自分の好きなこと」「退屈でやっていること」の三つに分けられます。60歳までの間に自らの好きなことに関わっていれば、時間ができた定年後にもスムーズに移行できる。

 しかし、60歳まで「やらなければならないこと」ばかりをしてきた人、外部から指示される、受け身の生活を送っていると、定年後は「退屈だからすること」だけの生活になってしまう恐れがあります。

 会社員であるうちは主体性がない方が物事がうまくいく面もあり、人生の主人公が自分であることを忘れてしまうのです。確かに上司からの「個性を発揮しろ」という言葉を真に受けて実行すると、後でエライ目にあうことがありますからね(笑)。

 私は40代半ばくらいから、遅くとも50代のうちに「主体性をもてる何か」を探しておくことを勧めます。言葉を変えると、会社員の自分とは違う“もう一人の自分”を持つということです。このもう一人の自分は「お金もうけができる」とか、外から見て「かっこいい」という必要はありません。本当に自分が好きなこと、ワクワクすることを見つけましょう。

「忙しくてそんな時間はない」と語る人がいますが、本当に好きなことを見つけると、時間の調整は何とかなるものです。

日々忙しく働いていたのに…
支店長の自分が不在でも組織は回る

 取材した中で面白い例を紹介します。営業を中心に実績を積み、出世街道を走っていた男性の話です。支店長を務めていた45歳の時、3カ月間のリフレッシュ研修で支店を離れる機会がありました。当初彼は支店の業績を心配していました。けれども業績は下落することなく、逆に上向きになるくらいだったのです。

 彼は自分がいなくても組織が回ることを知って、ショックを受けてしまいます。日々忙しく働いている自分は一体なんだったんだろう、と思ったようですね。

 そして、彼はある新聞記事に心動かされます。それは寝たきりだった92歳の女性が、ボランティアの美容師に髪をきれいにセットしてもらったのをきっかけに、施設内を歩けるようになったという内容でした。

「医師にもできないことを美容師がやれるのだ」と感動し、彼は会社には何も言わずに美容師資格の取得を目指すことにしました。資格取得に7年かかりましたが、退職後は美容室を開業し、多くのスタッフを抱えるまでにその店は成長したのです。

 彼のように起業するための準備でもいいですし、趣味でもいいのですが、自分はこれをやっている時が「意味がある」「幸せだな」、あるいは「ここが私の居場所だな」というようなものを現役時代に探し出す、育てる姿勢が大事だと思います。