あと、私は将棋でかなり大きなスランプに陥ったことがあるんですが、そのとき、とある対局の前日にモーツァルトの「バイオリン協奏曲第3番」を聴いたら明くる日に回復し、以後、勝ち続けました。演奏は今も健在の巨匠イツァーク・パールマン。僕は彼のバイオリン演奏の中にちょっと遊び心を感じたんです。それでスランプを脱した。

 バイオリニストの高嶋ちさ子さんも、スランプに陥ったときにこの「バイオリン協奏曲3番」を聴いて脱したと言っていました。プロの音楽家と素人の僕がスランプから脱した曲が期せずして同じというのは、なかなかおもしろいと思います。

次の一手を指すときは
必ず明るい気持ちで指す

茂木 音楽はどんなふうに聴きますか。

加藤 僕は「ながら聴き」はしません。集中して聴く。そしてひとつの曲をだいたい3回は続けて聴く。クラシックの名曲は集中して聴くことで、心が動かされたり、刺激を受けたりすると思う。音楽と真剣に向き合うことで気づきがあるんだと思います。

 さっきのアルファ波の話ですが、ヨーロッパのブドウ畑では、クラシックの名曲を流していて、するとおいしいワインができるんだそうです。日本でも、お酒を造るときに名曲を聴かせるとおいしいお酒になるというのは本当のことのようですから、モーツァルトに限らず、クラシックの名曲は、アルファ波が出ているのかもしれないですね。