ビジネスにも使える
「予測力」と「空間認識能力」
特に筆者の印象に残ったのが、アスリートの「予測力」と「空間認識能力」についての記述だ。
例えば、ロジャー・フェデラー選手のようなトップクラスのテニスプレーヤーが、時速200キロを超えるスピードのサーブを打ち返せるのは、先天的な反応能力を有しているからではないという。標準的な反応速度テストでは、一般の人とトッププレーヤーでは、実はほとんど差がないそうだ。
違うのは「予測力」。トップアスリートは、相手の細かい動きを読み、ボールがどのくらいの速度でどの方向に飛んでくるかを予測できるのだという。そして、それは持って生まれた才能ではなく、長年の練習によって脳に叩き込まれたものなのだ。
空間認識能力については、マンチェスター・シティFCで長年プレーした元サッカー選手ダビド・シルバの「よく回る首」が取り上げられている。彼は試合中、くるくると首を回して視線をあちこちに向ける。相手や味方の選手がどこにいるか、ボールはどう動いているか、といった状況把握を常にしているのだ。
メンバーそれぞれが、予測力や空間認識能力を存分に発揮しながら、自らの役割をまっとうする。そして、それぞれの行動が組み合わさり、調和している状態を著者は「集合的なゾーン」と呼んでいる。そうなると、サッカーで言えば、チームメイトのパスを予測したり、パスを出す選手は、パスを受ける選手が空いている空間に移動するのを予測したりすることができる。
さらに著者は、こうした「集合的なゾーン」をジャズの即興演奏にもなぞらえている。ジャズ演奏者が自由に、即興的に演奏しながらも他の楽器とハーモニーを作れるのは、それぞれがどんな音を出すのかを予測し、それに対しどう応じるかを瞬時に判断しなくてはならない。そして、全体のバランスを見て音を出さなければ、演奏はぐちゃぐちゃになってしまう。
これは、例えばビジネスでのプロジェクトワークでも同じではないか。メンバー同士で互いの意図や方向性にズレがないか、常に確認することがプロジェクトをスムーズに進め、成功に導くはずだ。アスリートやジャズ演奏者のプレーを参考に、チームでの動き方について、考えてみてはいかがだろうか。