エマは自分のことを「すぐに辞める人」だとずっと思っていました。

 16歳のときにフィレーネ・デパートの男性用のオーダーメイドスーツ部門に配属され、合わない仕事を辞めたときにそう思いましたし、高校生のときに、父親が、苦労して稼いだお金をポートフォリオ作成に充ててくれたのにモデルの仕事を断念したときもそうでした。そして、大学時代にボートチームをやめたときも。父親は、海軍に30年間勤めた退役軍人であり、ひとつの職場で働き続けてキャリア形成をする世代です。

 辞めようと考えるたびに、エマの頭の中には、父親の声がこだまのように響きます。父親を失望させまいという気持ちひとつで、インテリアデザイン会社の初級レベルの業務を6年間続けましたが、まったく楽しめず、昇進のチャンスも限られた職場でした。

ようやく「天職」に巡り会えたはずが
コロナ禍のバーチャル授業で疲弊する日々

 2017年、結婚して学齢期の子どもを持つ40代になったエマは、特別支援教育の修士コースで学びました。卒業して間もなく、熱望した4年生の補助教員の職に就き、ようやく自分のキャリアが実を結んだことにワクワクしていました。