1985年、コーセー初の女性取締役に就任。56歳で退社後は美容研究家として活動する傍ら、美容専門学校立ち上げやエンゼルメイク(死化粧)普及に力を尽くすなど、83歳の現在もバリバリの現役として活動している小林照子さん。女性活用が遅れている日本企業に何が必要なのかを伺った。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
「現場で働く人」だった
役員に抜擢された理由とは?
――高校卒業後、美容部員としてコーセーに入社。いくつものヒット商品を出されて役員に抜擢されたと聞きました。現在でも女性役員はまだまだ珍しいですが、当時はほとんどいなかったのではないでしょうか。
確かに珍しかったですよね。もっとも、資生堂やカネボウにも、ごく少数ではあるものの、女性役員はいたんです。就任後、毎日新聞の取材を受けました。記者の方は「コーセーの資本金は?」「社員数は?」なんて質問をしてくるのだけど、私は何一つ答えられない。知らないんですもの(笑)。
たぶん、記者さんも、女の役員相手に何を聞いたらいいのか、戸惑われたんでしょうね…。話が続かずに気まずい雰囲気だったんですが、「今、何をされてますか?」とご質問をいただいてね。ちょうどその頃、男性向け化粧品を作っていたんですよ。そのお話をしたら、ようやく会話がはずみ始めた。その後、新聞社の社内でも「男性用化粧品」に対してはいろいろな意見が出たらしくて、結局、1面に「男のメイクに賛否両論」というタイトルが付けられた記事が載りました。
当時のコーセーにとって、新聞の1面に載るだなんて快挙です。役員会議で「どうやって話をしたら載ったの?」って聞かれたので、「私、質問に何も答えられなかったんです」なんて打ち明けたら驚かれました(笑)。
――小林さんの役員就任から30年以上たっている現在、コーセーの女性役員は監査役1人のみです。なぜなんでしょう?
私の役員就任後、次の女性役員が誕生したのは、何と20年もたってから。その人が、今の女性監査役です。やっぱり、男性中心の組織の発想で、「美容部員は現場で働く人、経営幹部は大卒で数字も分からなくちゃ」という差別があるんでしょうね。管理職ぐらいなら女性もちらほらいますし、「小林さんの後に続きます!」って言ってくれる若い人たちもいるんですが。役員となると、やはりいまだにハードルが高い。
――その「現場で働く人」である美容部員からキャリアをスタートした小林さんは、なぜ役員に抜擢されたんですか?
当時の小林禮次郎社長は「小林の後ろには、4000人の美容部員がいる」と、理由をお話しされたようです。私ともう1人、同時に女性役員に抜擢された人がいるんですが、彼女は化粧品メーカーに必要不可欠なデザイナー。しかも、芸大出のエリートですから、三顧の礼で迎え入れられて、役員にもなるべくしてなったような人です。