「おい!どうしてくれるんだよ!」
店内に響きわたる利用客の怒鳴り声

 神崎さんのおかげで、窓口の目標達成に大きく前進できた。数字が上向くと、窓口のムードも一気に変わる。ついに、絶望的だった目標を達成できた。

 年度末は毎年、恒例の打ち上げを店内食堂で行う。コンビニで調達した軽食とビールのささやかな宴だ。こんな場でも支店長に感謝を述べ、ゴマスリを忘れない者がいる。一方、真のヒーローが神崎さんであることを知っている者は少ない。神崎さんは、一人で片隅のテーブルに座っていた。お酌に行くと、神崎さんはあのクシャクシャな笑顔で迎えてくれた。

「私など結構ですから、向こうの営業さんたちにどうぞ」

「何を言ってるんですか。うちの課の目標が達成できたのは神崎さんのおかげです。豊丸通商の取引を高熊屋からひっくり返してきたんですって?」

「あいつら、余計なことを…いや、たまたま運が良かっただけですよ。しかし、いいもんですね。こうして若い人たちが喜ぶ顔を肴に美味いビールが飲めるなんて久しぶりですよ。こちらのほうが礼を言わないと罰が当たりますね。ありがとうございました」

 この人は根っから営業が好きなんだ。それまでの輝かしいキャリアから、神崎さんは庶務行員という仕事をどのように捉えてるのだろうか…。

 それから3カ月が経ったある日のことだった。

「おい!どうしてくれるんだよ!」

 ATMコーナーから、利用客の怒鳴り声が店内に響きわたる。

「神崎さんが男性のお客さまに怒鳴られています。ここからではよく分かりません」

 即座にATMコーナーへ駆けつける。男性は、神崎さんから振り込みの操作方法を教えてもらっていた。ところが、振込手数料を差し引いて振り込むつもりが、差し引く前の金額で振り込んでしまい、損をしたことに腹を立てていた。

 振込先を確認すると、我々と同じM銀行、つまり同行間の振り込みだったため、受け取り側が引き出す前なら、銀行の案内ミスを理由に訂正することができる。私はすぐに男性へ説明した。しかし、男性は耳を疑うような捨てぜりふを神崎さんに吐いた。

「すいません、すいませんって、うだつが上がらない能無し野郎だな。だから、こんな仕事しかできねーんだよ!」