生産年齢人口の急速な減少により、我が国において人手不足という構造危機の深刻化が止まらない。これに対処するには、デジタル化・自動化による生産性向上に加えて、高齢者や外国人人材、障がいのある人など多様な人材が活躍できる環境整備をこれまで以上に推進していく必要がある。多様な人材を引き付け、雇用し続けるために何が必要なのか。3社の取り組みからその糸口を探る。

エンジニアは日本語力不問
4割強が外国人人材に

 帝国データバンクが2024年7月に実施した調査によれば、正社員が「不足」していると感じる日本企業の割合は 51.0%と半数を超えた。業種別ではIT企業を中心とする「情報サービス」が 71.9%と唯一7割超となり、人手不足感が際立つ結果となった。

 日本では大学でコンピュータ科学やソフトウェア工学を専攻する学生数が海外諸国に比べて少なく、特にソフトウェアエンジニアの不足感が強い。

 クラウド会計ソフトや家計簿アプリで知られるマネーフォワードでも、「国内エンジニアの採用難度が年々上がっており、このままでは、長期的に開発力を高めていくのが難しくなるという危機感がありました」。同社執行役員グループCHO(Chief Human Officer)の石原千亜希氏はそう振り返る。

「個」の可能性を解き放ち多様性を組織の力に変えるマネーフォワード 執行役員グループCHO(Chief Human Officer)、石原千亜希氏。

  そこで同社が決断したのが、採用における日本語要件の撤廃である。同社では創業6年目の2017年から外国人人材の採用を始めたが、当時は日本語能力を必須としていた。 このため、応募者は日本への留学生や海外で日本語とITの両方を学んだ学生などに限られていた。

   2018年、ベトナムでソフトウェア開発拠点を立ち上げたのを機に、日本語能力不問の現地採用を実施したところ、多くの応募者が集まった。国内でも日本語能力を問わなければ、もっと多様な国籍の人たちを採用できるのではないか。そう考えた同社は、2021年からエンジニア採用において日本語要件を撤廃した。同様の採用を行っている日本企業は稀である一方、日本文化が好きで日本で働きたいと考える外国人は少なくない。結果、日本語能力不問の採用を始めたマネーフォワードには、「中途採用を含めて、想定以上に優秀な採用候補者が世界中から集まるようになりました」(石原氏)。ベトナムやインド、インドネシアなどアジア諸国に加え、欧米からの応募も増えている。

 同社に所属するエンジニアの数は連結ベースで約700人(2023年11月期)だが、日本語を母語としないNon-Japaneseメンバーの比率はすでに4割強に及ぶ。採用市場におけるソフトウェアエンジニアの母数は海外のほうが圧倒的に多いことから、今後もNon-Japaneseメンバーの比率が高まっていくと同社では見ている。

  海外からの応募者向けにマネーフォワードでは、SNSなどでの英語情報の発信を強化、新卒向けには海外の大学を出て同社で活躍しているNon-Japaneseメンバーを紹介するビデオも作成している。各国で優秀な学生が集まる大学とのつながりを大事にしており、各大学の就職斡旋ポータルサイトに情報を掲載し、特定の大学を対象にオンラインで選考会を行うこともある。各大学で説明会を開く際には、マネーフォワードで働くその大学の卒業者を現地に派遣するようにしている。