京都で年越しそばを味わう

年越しそばを食べる風習は全国各地にありますが、京都らしいのは「にしんそば」でしょうか。昆布だしに薄口醤油で味を調えたつゆ、そば、その上に甘辛く炊き甘露煮に仕立てた「身欠きにしん」をのせているのが特徴です。箸を入れると骨までほろほろとくずれるほど柔らかなその身をほぐしながら、おそばに絡めて味わいます。
京の都には海がありません。冷凍保存技術を持たなかった時代には、新鮮な海の幸を新鮮なまま都に運ぶことができませんでした。若狭で水揚げされた鯖(サバ)に塩を振り、野を越え山を越えて都まで運んだ道が「鯖街道」と呼ばれていることは有名です。北海道で水揚げされ、保存のため干物に仕立てられた鰊(ニシン)は、てんびん棒を担いで全国を渡り歩いた近江商人を介して京の都に流通するようになりました。
「総本家にしんそば松葉」(東山区)では、2代目松野与三吉が1861(文久元)年の創業から20年たったころ、そばに身欠きにしんをのせた「にしんそば」を発案したことで、その元祖に。ニシンの卵「数の子」は、子孫繁栄の象徴としておせち料理に欠かせないほど重用されるのに、身の方は骨だらけで食べにくく、魚好きの猫ですらまたいで通るといわれたほど不人気でしたから、まさに京の都の“にしん革命”。存在価値を増した身欠きにしんのおそばは、やがて都中に普及し、広く人々に親しまれるようになりました。
南座の隣にある本店は、大晦日は夜9時半(ラストオーダーは9時)まで営業しています。お店で食べて帰るのが難しければ、味付け済みの身欠きにしんに、つゆとそばのセットが販売されています。つゆを温め、そばを茹で、身欠きにしんをのせれば、老舗の味が簡単に自宅で再現できます。そこに京都の原了郭や七味家の七味をお好みでふりかけると、甘さがキリリと締まって味わいが深まりますよ。