姉の葬式で発せられた
父の信じられない一言
先ほど「母の認知症と思われる症状」と表現したのは、結局、一度も病院を受診することなく、亡くなったためだ。姉も63歳のとき、肺がんで亡くなる。その葬儀では、父が驚くべき言葉を口にする。
「わりと充実した人生だったんじゃないか」
「死んだ瞬間から、姉が統合失調症だったという事実を改ざんし、歴史を塗り替えてなかったことにする。さすがに頭にきましたね」
ただ父は、息子がカメラに写した家族の記録を映画としてまとめることを許した。カメラを通じ、閉ざされていた世界がスクリーンに投影され、多くの人の目に触れることを厭わなかった。そこに父の息子へ思いがにじむ。
「父はだんだん私の仕事を応援してくれるようになっていました。自分よりも、私が病気で動けなくなることの方を心配していた。だから、この映画についても応援はしてくれるだろうとは思っていました」
藤野監督が「姉が統合失調症だと思ったことがあるか?」と父に質問すると「ある」と答えた。ただ、「姉が統合失調症であることを母が恥じて認めなかった。その判断に従った」と口にする。姉よりも母を優先したということになるが、「それでいいと思った」と。
「事実が逆で、父が母にそう仕向けたのだと思っています」
姉の統合失調症を両親が認めなかったことで、藤野監督の人生は変わった。目指していた学者の道も諦めた。姉に「復讐をしたいの?」と問うたが、自身こそが、この映画を両親への復讐のために撮った、という側面はないのだろうか。