大手の社員が知る由もない
フリーランスの厳しさ

 ざっくり説明すると、現在の日本では、製作会社が映画の企画・立案、資金繰りを行い、“下請け会社”であるところの制作会社に予算を示して業務を投げ、さらに現場を仕切る制作会社はフリーランスに仕事をオファーする。このあたりは業界外の人間には分かりにくい。

 では、映画作りの現場に携わる人たちは、どのような勤務形態で、実際にどのくらいの収入を得ているのだろうか。

 2020年に経済産業省が発表した「映画制作の未来のための検討会報告書」によると、勤務形態は、フリーランスなどが最も多く73.5%、正社員などが20.7%。フリーランス、従業員ともに35~39歳が最多で、次に40~44歳。収入は、従業員では400万円台(16.5%)が一番多く、600万円未満が6割弱。フリーランスでは、300万円台(17.2%)が最多で、600万円未満が約7割を占める。

 深田監督は、「大手と中小の映画では状況が異なると思います。私の現場の実感としてはフリーランスが8〜9割ですね」と話す。映画の現場に関わる人たちの職種は幅広いが、収入が比較的安定しているプロデューサーは主に製作会社の社員が多く、監督、撮影、照明、録音、美術、衣装、ヘアメイク、編集などがフリーランスであることが多い。

 調査結果の通り、会社員とフリーランスでは収入に違いがあり、会社員であっても大手と中小では大きな格差がある。また、「製作会社」と「制作会社」の社員でも、立場と状況が異なる。さらに、「同じフリーランスでも、大手製作会社の子会社(東宝スタジオなど)に出入りできているスタッフは、比較的待遇の良い仕事をしているケースが多いだろう」という。

 だが、大手も中小も、映画を1本撮る労働力は変わらない。そこで労働格差と給与格差が生まれる。このように「映画業界」とひとくくりにして語るのは難しい。

 深田監督は、「現場やクリエイティブに負担がのしかかっている現状がある」と指摘し、「特に大手の映画会社の社員として働いている人たちは、フリーランスの働き方の過酷さに対する理解が浅いことが多いと感じる」と明かす。