「たとえば2~3カ月低賃金、あるいはボランティアのような待遇で1本の作品に関わるためには、東京出身で実家があったり、裕福であったり、パートナーが支えてくれたりと、いくつかのサバイブできる恵まれた条件がある人が有利であるのは、間違いありません」
才能があっても、過酷な労働環境であるがために、志半ばで映画業界を去っていった人も少なくないということだ。
1日13時間拘束で、休みは月2回まで?
「映適」は救世主になるのか
このような背景の中、より良い映画業界の未来を目指し、さまざまな動きが出てきている。コロナ禍には、深田監督と濱口竜介監督が中心となり、経営の苦しいミニシアターを守るためのクラウドファンディング「ミニシアターエイド」が立ち上がり、多くの映画ファンから約3億円の寄付が集まった。
さらに、是枝裕和監督と諏訪敦彦監督が共同代表を務め、深田監督も名を連ねる「action4cinema(日本版CNC設立を求める会)」をはじめ、一般社団法人日本芸能従事者協会、NPO法人映画業界で働く女性を守る会swfi(スウフィ)、一般社団法人Japanese Film Projectなどの団体も活動をスタートさせている。
23年4月には、映画制作現場の環境改善への取り組みを目指した「日本映画制作適正化機構」(以下、映適)が設立された。前出の経産省による「映画制作現場の実態調査」の厳しい結果を受け、映画業界が自主的に設立した第三者機関だ。一般社団法人日本映画製作者連盟(映連)、協同組合日本映画製作者協会(日映協)、日本映像職能連合(映職連)から構成されている。映連は、東宝、東映、松竹、KADOKAWAの映画製作大手4社の団体、日映協は、制作会社の団体、映職連は、監督、照明、美術などの8つの協同組合の団体である。
「映画制作の適正化」とは、「映画製作者(製作委員会)と制作会社、フリーランスが対等な関係を構築し、公正かつ透明な取引の実現が図られること」と定義されている。そのために作られたのが映画制作適正化認定制度(作品認定制度)だ。3つの業界団体が提案した制作現場での就業環境ルール「映適ガイドライン」に則った撮影時間と休息時間のルール、ハラスメント対策などを行ったかどうかを審査し、遵守して作った映画に、「映適マーク」を与える。