筆者がビルの外へ出て待っていると、5分ほどして彼らは階段を1階へと降りてきた。
いや、男性の姿はない。
女性たちが両手にぶら下げていたショップバッグもなくなっている。彼女たちはその後、新宿駅東口へと向かう道の途中で解散し、それぞれ別の方へと歩いて行った。
拘束時間2時間たらずで1万5000円をもらえるなら、“割りのいいバイト”だ。
もちろん、自分の名義を他人に貸すというリスクと違法性があるが。
筆者は再び、雑居ビルに戻ってみた。先程は気づかなかったが、ビルの一角にベトナム料理店が入居している。営業はしていないが、扉の向こうからは人の気配が感じられた。ここがベトナム人転売ヤーの拠点となっているのだろうか。
筆者は3カ月後、3度目の緊急事態宣言が明けた後にこの料理店を利用した。料理のレベルは高く、価格も手頃な良い店だったが、会計時、レジの脇に大量に新品のスマホの箱が積まれているのが目に入った。そしてレジを打つ男性はまぎれもなく、3カ月前に家電量販店で女性たちを率いていた彼であった。
2000年代中頃に起こった
第一次スマホ転売ブーム
新規顧客獲得のための値引きスマホをターゲットにした、転売ヤーの活動が活発になったのは、この時が初めてではない。値引きスマホを対象とした第一次転売ブームがあったのは2000年代中頃だった。
各キャリアはガラケー時代から、回線契約と同時に販売する端末に対し、大幅な値引き販売を行っていた。しかし、当時は自社の回線でしか端末を利用できないようにする「SIMロック」や、いわゆる「2年縛り」など、早期解約に対して高額なペナルティを課していた。これによって各キャリアは利用者をガッチリと囲い込んでいた。
スマホが急拡大期に入った2010年以降、こうしたスマホの大幅値引き販売は勢いを増し、各キャリアの代理店のスマホ陳列台には、「実質1円」などの文言が躍る。
しかし、2015~2016年あたりになると、「SIMロック」や高額な解約金は公正な市場を阻害するとして政府から是正を求められるようになり、廃止へと向かうことになった。