MNPによる乗り換えを繰り返す
特典目当ての転売ヤーが増加

 そうしたなか、上限2万2000円という値引き規制も、「回線契約を強制しない」という規制の抜け穴を掻い潜る手法を各社が取るようになったことで、形骸化していった。一旦は鳴りを潜めていた「1円スマホ」も復活した。

 MNP(モバイルナンバーポータビリティー)制度、つまり、携帯電話番号はそのままに通信会社だけを変更することができるというシステムを利用した他社からの乗り換え契約に対して、端末代は実質タダにするうえに、家電量販店のポイント2万円分を付与するという施策まであった。

「こうした特典を目当てに、MNPによる乗り換えを繰り返す転売ヤーが増えています。ルール上は、契約から6カ月経てば、MNPで転出が可能です。6カ月おきにこうした特典を受け、ただ同然で入手した端末を転売すれば、小遣い稼ぎになる」(前出・男性店員)

 そしてもうひとつ、転売行為を助長する新たな要因が加わったという。

書影『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)
奥窪優木 著

「2019年以前、多くのMVNOでは、一名義で契約できる回線数は1つまでと制限していました。しかし、大手3社が値下げに踏み切ってからは、1名義あたり最大5回線まで開設できる事業者もある。複数の事業者と契約すれば、1人の名義で20回線以上持つことも可能です。

 それぞれ最低料金プランで契約をしたままにして乗り換えを繰り返せば、端末の転売代金はまとまった金額になります。格安携帯会社にとって、契約後すぐに解約されることは損失にしかなりませんが、今はユーザーのぶんどり合戦の真っ只中なので、身を切りながらもこうした施策を続けるしかないでしょう」(同)

 この男性店員が働く店舗では、2021年に入り、スマホの一日当たりの契約件数が約3倍に増加したというが、「増加分の半分くらいは転売ヤーによる契約だと思います」と話す。

「日本人の転売ヤーがMNP目当てなのと違い、ベトナム人グループは新規契約がメイン。繰り返し来店している指南役のようなひとりが、どこからか連れて来た3、4人の名義で契約をさせていくんですが、1グループで30回線以上契約していくこともある。新規契約はMNPに比べて特典が手厚くないことが多いですが、それでも30台すべて転売すれば、十数万円の儲けがあるでしょうね」