筆者にそう語ったのは、とある家電量販店の男性店員だ。その頃、筆者はスマホ転売ヤーの実態を取材するべく、家電量販店に足繁く通っていた。顔見知りとなった彼から、転売ヤーの動向について情報提供を受けていたのである。彼はこうも明かしていた。
「今、日本人の転売ヤーと同じくらい来店しているのが、ベトナム人の転売ヤーです。日本人は単独かせいぜい2人連れですが、ベトナム人は4、5人のグループで来店して、全員が複数台契約していく。彼らが来ると在庫が一気に空になります。うちとしては、契約件数を稼げるのでありがたいですけど」
この話を聞いた筆者は、旧知のベトナム人男性、ズン君(仮名)の協力を得て、在日ベトナム人が集うFacebookコミュニティを巡回してもらった。転売行為が行われているとすれば、SNS上で人員募集の告知がされているはず、と踏んだのだ。
読みは当たっていた。ズン君はすぐに、「携帯電話契約バイト」「日当1万円」などといったキーワードが含まれた、転売業者のものと思われる投稿を見つけてくれたのだ。
日当は1万5000円
“携帯転売バイト”の実情
それらに対しズン君に、バイト希望者に扮して応募してもらった。5つのアカウントにメールを送信したところ、うち3つから返信があった。共通点は3つ。
「新宿駅西口集合・解散」
「外国人在留カード必須」
「参加条件は携帯電話やインターネット回線の利用料金を滞納していないこと」
ズン君は実際にひとつの業者に日雇いバイトとして採用された。日当は1万5000円という。
バイト当日、指定の場所だった新宿駅西口の喫煙所前に筆者は張り込んだ。
まず女性3人が別々にやって来たのち、少し遅れて男性が現れた。男性はズン君が来ていないことを気にするようなそぶりをしていたが、5分ほど待った後、見切りをつけたのか、女性たちを一軒目の家電量販店へと誘導していった。その跡をつけた筆者が目にしたのが、冒頭の一幕である。
彼らはさらに、付近にある別の家電量販店に移動し、同様に「仕事」を済ませた。その後、彼らは、歩いて10分ほどの、新大久保エリアにある5階建ての雑居ビルに入り、階段を駆け上がって行った。突き出した看板から、いくつかの飲食店が入っているビルだと窺える。昼食を取るつもりなのだろうか。筆者も階段を上がってみたが、コロナ真っ只中ということもあり、営業している飲食店はなく、彼らを見失ってしまった。