元タレント、中居正広氏の女性トラブルの騒動を巡り、フジ・メディア・ホールディングスとアクティビストの攻防にも注目が集まる。その行方を探る上で参考になるのが、同じテレビ業界のTBSホールディングス(HD)にかつて株主提案をした、英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)がたどった顛末だ。特集『フジテレビ崩壊 沈むメディア帝国』の#4では、AVIの坂井一成日本調査責任者に、投資開始から3年後の2020年にTBS株を全株売却した理由や、TBSHDが現在も抱えるガバナンスの問題点を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
若者中心に伝統メディア離れが加速
デジタルコンテンツへの投資が分水嶺
――2017~20年に、英国を拠点とするアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)はTBSホールディングス(HD)に投資しました。そもそも、AVIはどのような観点で日本株を調査しているのですか。
まず前提として、現在、AVIはTBS株を保有していません。また、17年にTBSHDへの投資を開始したのは、TBSHDが企業価値の成長余地がある素晴らしい会社だと考えたからです。20年にAVIがTBS株を全株売却してから現在に至るまで、TBSHDに対して過度にネガティブな印象を持っているわけではないことを先にお伝えしておきます。
AVIの主な投資対象は、証券会社や機関投資家による調査の手が行き届かない企業です。証券会社等のアナリストの調査対象から外れる中小型株を中心に投資しています。
他に注目するポイントは、本業に活用されていない非事業性資産を多く抱えていることです。さらなる成長投資に振り向けられる原資があることを意味するからです。
――非事業性資産の中では、何をチェックしていますか。
純現預金(ネットキャッシュ)や政策保有株に加え、賃貸等不動産の含み益も見ています。
――かつてTBSHDに目を付けたのも、政策保有株や賃貸等不動産を多く保有していたからですか。
おおむねご認識の通りですが、詳しく説明します。
TBSHDのPBR(株価純資産倍率)は非常に低い水準にありましたが、見た目のPBR以上に割安だとみていました。ネットキャッシュや政策保有株、不動産含み益などの非事業性資産を勘案すると、本業であるメディア事業の価値はゼロ以下という算出結果になったからです。それだけ、市場では割安な状態で放置されていました。
また、政策保有株などを売却した後、資金をどのように活用するかが重要です。
現在もそうですが、TBSHDに投資を開始した17年当時から、日本の伝統メディアは厳しい競争環境にさらされていました。スマホ一つあれば、NetflixやAbemaTVなど多くの媒体にアクセスできる時代です。若者を中心にタイパ(タイムパフォーマンス)志向が広がり、ますます伝統メディア離れが加速しています。
このような潮流の中で、10~20年先を見据えたデジタルコンテンツへの投資に踏み切れるかどうかが、日本の伝統メディアの分水嶺になるとみていました。そこで、テレビ局の中でも、TBSHDなら大胆な投資による事業成長が可能だと考えました。過剰な政策保有株を売却すれば、成長投資に振り向ける原資を十分に確保できるからです。
――割安度や潜在的な成長力に投資妙味を見いだしていたTBS株を、20年下期に全株売却しました。何がきっかけだったのですか。
TBSHDの経営陣と対話する中で、大胆な意思決定ができるような胆力を感じ取れなかったからです。投資開始から3年が経過し、これ以上時間を空費するわけにはいかないと考え、全株売却に至りました。
TBS株を全株売却した背景について、TBSHDの経営陣から「大胆な意思決定ができるような胆力を感じ取れなかった」と明かした坂井氏。次ページでその理由を聞くと、TBSHD経営陣が今もなお抱える、旧態依然とした構造問題が浮かび上がった。また、今後、フジ・メディア・ホールディングス(HD)やTBSHDといった日本のテレビ局が投資対象になり得るかどうかについても語ってもらった。