フジテレビを傘下に持つフジ・メディア・ホールディングス(HD)が27日に開催した記者会見は、10時間を超える「経営陣vsメディア」の耐久戦となった。質疑応答のテーマは、ガバナンス(企業統治)の機能不全、人権意識の欠如、スポンサー離れによる広告ビジネスの危機などと多岐に及んだ。現取締役の経営責任を追及するメディアが相次ぐ中、前ネスレ日本社長の高岡浩三氏は、「(取締役相談役である)日枝久氏が41年も権力の中枢に居座ることを許した責任は、取締役ではなく株主にある」と異論を唱える。その真意はどこにあるのか。特集『フジテレビ崩壊 沈むメディア帝国』の#3では、日本企業のガバナンス問題を凝縮させたような「フジテレビの病巣」について余すところなく語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集長 浅島亮子)
グローバル基準ならば
100%株主代表訴訟を起こされている
――フジ・メディア・ホールディングス(FMHD)の記者会見では、会長兼フジテレビ会長の嘉納修治氏、取締役兼フジテレビ社長の港浩一氏の両名が辞任し、新たにフジテレビ社長ポストにFMHD専務の清水賢治氏が就く人事が明らかになりました。
所詮、トカゲの尻尾切りですね。FMHDの大株主には米ファンドのダルトン・インベストメンツが控えているわけですから、FMHDの会長、社長の退任は免れないでしょう。
清水新社長にしてもただ紹介しているだけで、こういう理由で取締役会から任命されたという説明が全くありませんでした。説明がなければ、この指名が実力者である日枝久氏(FMHD取締役相談役)によるものなのかと勘ぐられますよ。
当然のことなのですが、企業経営においては、経営者に誰を選ぶかが一番大事。経営者1人で全てが変わるっていうのが世界の常識です。だからこそ、取締役会は社長をしっかり監視して、その社長が駄目だと思ったら、次の社長を探してこなければならない。その目利きのできる人間が日本にはほとんどいない。
――高岡さんは、日本にプロの経営者が乏しいと仰ってますよね。なかなか理想通りに事を運ぶのは難しいのでは。
もちろん、プロ経営者が圧倒的に少ないっていう事情はあります。
外資系企業では、取締役会の構成メンバーはほぼ社外。物を言える人たちばかりです。株主から選ばれる人たちですから。昨年、古巣のネスレでは、業績が悪かったという理由で社長が“解任”されています。それが当たり前のことです。
――日本の取締役会は経営をチェックする資質がないと?
はい。経営のプロではない。まずは、最低でも取締役の過半を社外にする。日枝氏が相談役でありながら取締役メンバーとして残っているなんておかしいじゃないですか。一般論にはなりますが、弁護士や会計士や大学の先生を入れる。日本企業の取締役会は経営を監視する資質に足りてない。フジテレビの問題を見ていると、日本企業が抱えている経営課題の縮図のように見えます。
今回のような(人権侵害に関わる)重大事案があったのに、取締役会の議論にすらかけられていないのは、不思議でなりません。ダルトンからも、問題の真相究明を求められているというのに。海外だったら、100%株主代表訴訟を起こされますよ。それに取締役は善管注意義務(会社のために、業務執行の決定や他の役職員に対する監視・監督などを担う義務)違反になりかねない。つまり、罪に問われるわけですよ。こういったところが日本は甘い。
――記者会見でも、あの手この手で経営陣の責任を追及するメディア・ジャーナリストが後を断ちませんでした。
長丁場になりましたね。時間は十分過ぎるくらいありましたが、メディア・ジャーナリストの皆さんが的外れなことを言っているなと感じた点があります。
――追及する側のメディアも、ガバナンスに関してはまだまだ未熟であると…。耳の痛い話ですが、どういう意味でしょう。
41年以上も日枝氏を権力の中枢に置くことを許してきたのは、株主の責任であって、取締役連中の責任ではありません。経営を知らないメディア・ジャーナリストは全く的を外しています。業績が悪くなった15年ほど前には、日枝氏を取締役の座から降ろしておかなければならなかったのです。
現取締役の経営責任を追及するメディアが相次ぐ中、前ネスレ日本社長の高岡浩三氏は、「(取締役相談役である)日枝久氏が41年も権力の中枢に居座ることを許した責任は、取締役ではなく株主にある」と株主の実名を挙げ異論を唱える。次ページでは、その真意に迫る。また、グローバル企業の経営者ならではの視点で、FMHDと日本の広告代理店のビジネスモデルに潜む「死角」に斬り込んでもらった。