すごい存在感…5万円でも即完売、等身大ぬいぐるみ「サーナイト」が大ウケする理由
かといって、収入をガッと上げて金銭的に豊かな生活を手にいれようという時代でもない。近年若者の出世欲が低いのは有名な話で、TOSHO転職オンラインが2022年に行ったアンケートでは、20代の77.6%が「出世欲がない」と回答した。多数の若者が、ガツガツすることなく、自分の手の届く範囲の生活に満足しようとしている様子が見て取れる。
この割合の多さは若者世代に特徴的だが、同じ時代の同じ社会的環境を生きる別世代にも、その傾向はある程度流入してきていると考えるのが自然であろう。
参考)TOSHO転職オンライン
SNSは「心の豊かさ」をアピールできて
承認欲求が満たされる
そうした生活の中で目指されるのは、自分の心の豊かさである。心の余裕は金銭で不安がなければ大部分達成されるが、生き方や気の持ちよう次第でタダでも手に入れることができる。
「自分の心の豊かさ」に注目した生き方は、SNSによっても強力なサポートを受けている。「自分はこんなに豊かです」とSNSで発信することによって他者の評価を獲得できる=承認欲求を満たすことができる。SNSがなければ自分の豊かさを自分で眺めてひとりひっそりほくそ笑むか、仕事で成功するなど周りにわかりやすい成果を出すことで承認欲求を満たすしかなかった。
しかし今はSNSを使いさえすれば、心豊かな生き方と、それを肯定してくれる他者の評価を並行して獲得することができるようになったのである。
等身大サーナイト5万円が面白がられつつ、さしたる違和感なく受け入れられたのは、その5万円の出費に共感できる部分があったからではあるまいか。160センチのぬいぐるみが部屋に来たからといって生活が便利になるわけではないし、ラグジュアリーさを楽しめるわけでもない。しかし購入者は全力で満喫しているし、それを見る人は「あれに5万円なんてありえない」と否定するのでなく、「楽しそうでいいなあ」という感想を抱いた。
それも成立させているのは「他者をむやみに貶めない現代的な道徳心の高さ」か、あるいは「別ジャンルでならあり得る、心の豊かさを求めた俺の・私の5万円の出費」の可能性をおのれの内に自覚していたからにほかならず、どちらにせよいかにも現代の世相を如実に描き出しているように感じられたのであった。