教師を目指す若者が減っている
いかなる理由があろうとも、この教師の行為は決して許されるものではない。しかし、この女性教師は長年にわたりメンタルヘルスの問題で休職と復職を繰り返していたという。教師が精神的不調に陥った要因や、わずか3週間で突然の復職に至った経緯など、多角的な検証が必要だろう。
教師という職業は、かつての韓国では「尊敬されるべきエリート」であり、安定した職業とされていた。5月15日に「先生の日」があるのは、教師が絶対的存在であった時代の証ともいえる。
現在は教師を目指す若者が減り、教師を養成する教育大学のレベルや競争率が年々低下、かつてのように難関ではなくなった。今や地元の国立大学と統合する案が出ている教育大学も少なくない。
背景には、体罰を始めとする厳しい指導の禁止、学校で暴力やいじめといった問題が発生した時に教師が責任追及されること、保護者や児童・生徒の発言力の増大により「教師はもはや誇れる仕事ではなく、ストレスの多い職業」という認識が定着し、敬遠する若者が増えているといった事情がある。
筆者も韓国で子どもを学校に通わせ、教師と接する機会も多々あるが、厳しい環境下でも子どもたちと真摯に向き合い、情熱と愛情を持って教育に携わる教師は少なくない。だからこそ、この事件で教師全体が不信の目で見られたり、教師という職業へネガティブな印象が付いたり、心身の不調を抱える教師への偏見が広がったり、といったことを懸念している。
韓国では重大事件が起きると、人々の声を反映して、被害者の名を冠して事件防止のための法改正が行われるケースが多い。今回も与野党で何らかの法を制定しようという動きが始まっている。一方で、加害教師が、韓国の左派系民主労働組合総連盟加盟団体の一つである教職員組合、全教祖の幹部であったという真偽不明の情報が拡散され、全教祖側が否定するなど、この事件もまた政治利用されそうな懸念がある。
教育を支える教師たちの心身の不調の増加は、韓国社会が抱える問題や閉塞感の表れとも言える。犠牲となった児童の冥福を祈るとともに、子どもたちが安心して学べる学校であってほしい、そして教師たちが心身共に健康に働けるよう教育現場の環境改善をしてほしいと強く望んでいる。