障害個性言説が
行きついた奇妙な逆説

 ふたたび一般向け書籍の中から該当する箇所をいくつかピックアップしてみると、たとえば次のような例を挙げることができる。

 発達障害の子どもたちは、枠から外れたように見えるほどの強い個性を持っています。それは、普通の人間では成し遂げることができないような、常識を超えた何者かになる才能を持っている証にほかなりません。

 事実、発達障害でありながら世界を股にかけて活躍する著名人は多く存在します。たとえば、映画監督のスティーブン・スピルバーグや俳優のトム・クルーズは、自ら発達障害であることをカミングアウトしています。アップル社の創立者のひとりとして名高いスティーブ・ジョブズも、発達障害の可能性が示唆されています。

 また、ニュートン、エジソン、モーツァルト、野口英世、山下清など、歴史上の偉人の中にも、発達障害だったのではと思われる人物が数多くいます。(大坪信之[2018]『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』幻冬舎、2~3頁)

 確かに彼らは初診の時点でとても困っていますが、環境調整、薬物治療、カウンセリングなどによって発達障害の特性がマイナスからプラスに転じ、苦しみから解放されるばかりでなく、アドバンテージになることさえもあるのです。つまり、発達障害は能力の凸凹であり、最初は凹んだ「影」のマイナス面が目立ちますが、突出した「光」のプラス面は卓越した能力であり、その活かし方次第で人生が大きく変わる可能性を秘めています。(福西勇夫・福西朱美[2018]『マンガでわかる発達障害――特性&個性発見ガイド――』法研、5~6六頁)

 私たち発達障害のある人たちは、ユニークな個性を持つ人が非常に多いです。でも、「普通の人」を目標にしてしまうと、その個性が消されてしまいます。だったら、「普通」を目指すのではなく、個性的に生きることを選んで、他人と差別化しましょう。そして、その個性こそが自分の強みになっていくはずです。(銀河[2021]『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』扶桑社、24頁)

 ここに列挙したようなタイプの言説は、発達障害という「個性」を、積極的に「能力」や「才能」という価値と結びつけて語っているところに大きな特徴がある。つまりここに表出されているのは、まさしく「差異化のレトリック」そのものにほかならないのである。