不良債権問題で痛感した
世論との認識ギャップ

 もちろん、健康寿命の上昇を考えると、伝統的な既存の定義での生産年齢人口が真の生産年齢人口の動きを正確に捉えているわけではないだろう。実際、「団塊の世代」が65歳を迎えた2010年代から労働参加率はかなり上昇し、労働力人口は一時的にむしろ増加した。

 しかし、そうしたプロセスもずっと続くわけではない。「団塊の世代」も後期高齢者になると、さすがに多くは完全リタイアする。最近、人手不足感が強まっていることはまさにこのことを端的に示している。

 これから影響が本格化するのは高齢化というより、人口減少それ自体である。

 就業率が現在の水準で一定であると仮定して先行きの就業者数の変化率を試算すると、出生率が国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」の出生中位推計の場合、2010年代はプラス0.41%だったが、20年代はマイナス0.55%、30年代はマイナス0.94%、そして50年にはマイナス0.97%と見込まれ、就業者の減少は加速していく。まさに慄然とする現実である。

 私はこの人口減少問題への取り組みの遅れという現状を見ると、1990年代前半に日本銀行で不良債権問題に取り組んでいたときに痛感した世論との認識ギャップと、人口減少問題をめぐる現在の状況が恐ろしく似ていることを感じ、そのことに焦燥感を覚える。

 不良債権問題は放置すると先行き多くの国民の生活に深刻な影響を与えるマクロ経済の問題であるにもかかわらず、そうした理解を得ることが難しかった。

少子化・人口減少問題は
破局的な未来が見えづらい

 当時、不良債権問題はバブル期に無分別な貸出を行った銀行の経営の不始末の問題との認識が強く、世論は金融機関に対する公的資金の投入に対して批判的であった。このため、不良債権問題の解決に向けた

 施策は非常に遅れ、その後の日本の経済や社会に甚大な影響を及ぼした。今思い出しても、実に残念なことであった。しかし現在、人口減少問題という、不良債権問題よりもさらに深刻な影響を及ぼす問題への取り組みで、全く同じことが進行している。

 私は今、少子化・人口減少問題と不良債権問題の類似性を述べたが、重大な違いもある。

 不良債権問題は問題を先送りしても、一定の臨界値を超えると、金融機関は資金繰りが付かなくなる。その結果、やがて深刻な金融危機という明確な破局が到来する。1997年秋は、まさに日本の金融システムがメルトダウンしかけた時期であった。