もうひとつ例を挙げると、長期的な生産性引き上げという観点からは、基礎的な研究開発や高等教育への公的投資は重要であるが、現実のポリティカル・エコノミーを考えると、人口が減少し高齢化も進む状況では、限られた財政資源の配分はどうしても高齢者に向かい、将来への投資は抑制されがちである。

 生産性の上昇とは結局のところ、社会全体として変化に応じて資源を速やかに再配分できる能力とスピードにかかっている。そのように考えると、「人口が減少しても生産性上昇で解決する」とだけ言うのは、厳しい現実から目を逸らした議論のように思える。

 生産性向上の努力はもちろん重要であるが、それと併行して、少子化・人口減少自体を食い止める取り組みが不可欠である。

あらゆる手立てを講じているか
このままだと日本は「不戦敗」

 第5の理由は、「人口減少は受け入れるしかない」とか、「人口減少を食い止めると言っても有効な手段はなく、もはや手遅れ」といった諦観が広がっていることである。しかし、そうした諦観は少子化・人口減少問題を放置する場合の深刻な帰結を認識し、あらゆる手立てを講じた上でのものだろうか。

 私にはそうは思えない。『人口戦略法案』を著した山崎史郎氏の言葉を借りると、このままで行くと日本は「不戦敗」である。

 まずは、出生率の低下をもたらしている要因を、出会い・結婚・出産・育児・仕事という人生の重要なステージに即して総点検を行って洗い出し、直面している困難の緩和のために社会や行政が支援をすることだ。出生率の引き上げというのは、よりよい社会を作るという努力の結果として実現するものだという感を深くする。

 このようにさまざまな理由から、少子化・人口減少問題の深刻さへの認識は現在なお不十分であるが、人口戦略会議が出した報告書も契機となって、認識が改まることを強く期待している。