いきなり社長で「いきなり地獄」?
「訳あり店舗を運営してもらいます!」とのキャッチコピーとともに、本人の写真入りポスターが掲出され、「いきなり経営者になるチャンス!」という強烈な文言が注目を集めた(オトナンサー、2020年2月6日)。「社長システム」とは、売上高が減少傾向にある直営店舗を対象に、経営哲学に共感する個人に運営を委託するというものであった。
ペッパーフードサービスの広報担当者(当時)は「訳あり店舗は売り上げが減少傾向にある店」「“サラリーマン的”感覚を持つ店長が増え、当初想定していた『いきなり!ステーキ』の価値をお客さまに届けられない店舗が出てきました」(同上)と説明している。そのため、経営感覚を持ち、理念を共有できる人物に委託することで、不振店舗の再生を目指したという。
しかし、ポスターはSNSなどで「荒業」「いきなり地獄」と揶揄され、「いきなり倒産」との不安すら広がった。300万円の開業資金(うち150万円が加盟金と釣り銭)と、最低保証30万円を提示する内容にも懐疑の目が向けられ、「訳あり=失敗店舗」との印象が払拭されることはなかった。
結果として、企業としての苦境を公にしつつも、責任転嫁的な印象や強引な拡張策として受け止められることとなった。
ネガティブな記述ばかりになってしまったものの、「理念先行型」かつ「創業者個人の熱意」を軸とした経営姿勢が、業容拡大の原動力であったことも事実である。
一瀬邦夫氏は、ステーキを「日本人の日常食」に変えることを目指してきた。構想は単なる国内展開にとどまらない。「日本発のステーキ文化を世界に広めたい」「ステーキをラーメンのような国民食に」と踏み込んだ発言に象徴されるように、グローバル展開を前提とした壮大なビジョンを伴っていた。
2017年にはニューヨーク・マンハッタンに海外1号店を開業し、現地メディアや経済誌でも「立ち食いスタイルの異色ステーキハウス」として取り上げられた。