
トランプ氏の言動に世界が振り回される中で、日本のクルマの安全基準に関する誤解については、さすがに黙っていられません。「ボウリング球テスト」発言について、正しい事実は何か解説します。実は、「SUVの流行」とも少し関係しているのです。(モータージャーナリスト/安全運転インストラクター 諸星陽一)
自動車にボウリング球を落とす
テストなんてありません!
トランプ米大統領が関税交渉について「各国が関税の緩和を求めているが、彼らは何十年にもわたるひどい行為を正すべきだ」などとSNSに投稿。非関税障壁の例を出す中で、「保護的な技術基準」として「日本のボウリング球によるテスト」を挙げました。
トランプ氏は以前も、日本の自動車の安全基準が厳しすぎると指摘。「(日本が輸入車に対して)ボウリングの球をボンネットに落とすテストを義務付けている。戦車でもない限りクリアできない」などと発言し、物議を醸しました。
実はこれ、全くもってデタラメというか、トランプ氏は大変な勘違いをしています!
まず、事実から述べると、日本でボウリング球を使った自動車に関する国の試験はありません。
交通事故で死亡する人の約3割は、クルマと人が衝突する事故で亡くなっています。そのうち約半分は、歩行者が頭部をクルマに強く打ち付けています。
このため国土交通省では、クルマと人が衝突した際に、頭部を保護する性能を求めています。その保護性能を評価するために行われるのが、「歩行者頭部保護試験」です。
トランプ氏が勘違いした安全基準の話は、この歩行者頭部保護試験のことでしょう。この試験は人間の頭部に模したダミー(恐らくトランプ氏が“ボウリングの球”と勘違いしたもの)を、ボンネットやフロントウインドウに打ち付けて、どれくらいショックを吸収するかをテストしています。
クルマ側は、ボンネットやフロントウインドウが変形することでショックを吸収します。つまり、戦車のように硬い装甲のクルマだと危険極まりなく、歩行者頭部保護試験では低評価となります。