「これからはテレビ局も動画配信サービスを活用だ」「新聞もDX推進だ」といろいろと理屈をこねても根っこの部分は「広告ビジネス」なので、どこまでいっても消費者と企業の顔色を伺うしかない。だから、誰にも怒られない、クレームを入れられない、謝罪や訂正をしなくていい「当たり障りのない無難な番組や記事」しか世に出せない。
当然、顧客満足度は低下するので、読者や視聴者はSNSや動画配信サービスへ流れてしまう。部数や視聴率が目減りすると売り上げをキープしようとさらに「広告依存」が強まるので、これまで以上に「無難なコンテンツ」に傾倒する……という悪循環に陥ってしまう。
こういうオールドメディアの致命的な弱点が、「ダウンタウンチャンネル(仮)」が社会に認知されるほど、世の中に知れ渡ってしまう。
例えば、7月に配信をスタートした後、松本人志さんの性加害疑惑を追及している人たちが「被害者に未だにちゃんと謝罪をしていない松本人志の姿など不快で観たくない」と騒いでも、契約者は「事情を知ったうえで松本さんを観たいという人たち」だけなので痛くも痒くもない。
地上波テレビではできない過激な企画、尖った笑いなどをして、それを伝える記事などが話題になって、カスタマーセンターに「なんだこの下品な内容は、家族で観れないだろ」とクレームが入っても、担当者は「申し訳ありません、当チャンネルはそういうものなのでご不快なようであれば、ご契約の解除方法をご案内しますが……」と言えばいい。
もちろん、これまで述べてきたような弱点は、テレビや新聞も十数年前からわかっていた。だから、サブスクなど新しい取り組みにも果敢に挑戦してきた。しかし、なかなかうまくいっていないという現実がある。
そんななか、お笑い芸人があっさりと「広告依存しないメディア」を軌道に乗せてしまったら、オールドメディアにとってかなり屈辱だろう。テレビや新聞の中には「大コケしろ」と願う者も少なくないだろう。
というと、「ダウンタウンチャンネル(仮)」というのは新しいビジネスモデルのように聞こえるだろうが、そんなことはない。ツールは新しいが構造は、「劇場」や「コンサート」と同じく古いビジネスモデルだ。芸人やアーティストが、漫才や歌というコンテンツを見せて、そこに対価を払ってもいい、という客が集う。客につまらないと思われたら廃れるし、客に支持されれば成立する。テレビや新聞という「広告ビジネス」よりもはるかにシンプルなコンテンツビジネスなのだ。