それに対して小針さんは、不思議そうな表情で答えたものです。
「試験はありません。高く評価されない子は英語を嫌いになり英語嫌いをつくることになってしまいます。だから、試験は必要ないと考えています」
コミュニケーション・スキルなのだから点数をつける必要はない。ましてや競わせるものでもない。ホクレアの英語学習の方針ははっきりしています。
どんな社会になっても生きぬける子を育てる
前述したサークルタイムのとき、小針さんの横に座って元気に発言していたのが、じつは彼の息子さんでした。その息子さんのために、小針さんはホクレアをつくったのです。
息子さんは生まれて数日後に、ふたつの先天的な障害をもっていることが判明します。そのうえ、手術、入退院を繰り返すなかで白血病までも発症してしまいます。長いながい闘病生活を、小針さん夫婦は「息子が生きいてくれさえすれば」という思いで過ごしたそうです。
両親の思いもあって、息子さんは病気に打ち勝ちます。そのときには、小学校入学を考えなければならない時期になっていました。私立小学校の受験準備を進めながら、ふと小針さんは「学校や教育に何を求めているのだろう?」と考えたそうです。そして、いわゆる高い学力を養ってくれる学校ではなく、「生きる力を養える学校」だという結論になりました。そのため、一から学校探しをやり直すことになります。
そこで、とあるオルタナティブスクールの見学や体験入学もしたところ、息子さんが「さっきの学校に通いたい」と言ったそうです。私立小学校や公立小学校にも見学に行ったけれども、そういうふうに息子さんが言ったのはオルタナティブスクールが初めてだったそうです。
「先生の言うことを絶対に聞かなければいけないという私立や公立の雰囲気に馴染めないと感じたようです。なんか軍隊的な雰囲気を感じたのではないでしょうか」
ただし、見学したオルタナティブスクールはすでに定員がいっぱいで、空きを待つにしてもいつになるかわからない状態でした。私立小学校の合格通知ももらっていたけれど、親子ともに乗り気ではなかったといいます。
それならと、小針さんは自ら学校をつくることを決意します。一条校ではない、もうひとつの学校です。そう決意した2021年10月26日、小針さんはフェイスブックに次のような投稿をします。