ひろゆきPhoto:JIJI

言わずとしれた現代の論破王・ひろゆきの主張は、いったいなぜ気づけば周囲を納得させ、反論の余地も与えないのか。彼の論破の仕方を分析する。※本稿は、戸谷洋志『詭弁と論破 対立を生みだす仕組みを哲学する』(朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。

ひろゆきによる
論破の特徴

 ひろゆきの論破は、主として討論番組などで披露される。その特徴がはっきりと表れるものとして、テレビ朝日とABEMAの共同制作のもと、2020年から2023年にかけて放送されていた番組『マッドマックスTV(編集部注/同番組名は2022年4月以降『マッドマックスTV論破王』に変更)』における、彼のパフォーマンスを挙げることができるだろう。

 この番組の企画の一つに、「ひろゆきの論破シリーズ(編集部注/この企画は2022年4月より「ガチンコディベート対決」に改名)」がある。これは、ひろゆきと著名人が様々なテーマでディベートを行い、その勝敗を学習院大学弁論部や日本弁論連盟などから選出された審査員によって判定する、というものだ。

 ディベートでは最初に問いが提示される。その問いへの回答は、基本的には相互に両立しない二つの立場へと分けられる。たとえば「生まれ変わるならどっち?絶世の美女・美男子 or 超お金持ち」といったようなものだ。出演者は、まずは、そのうちどちらか一方を採用し、自分の立場とする。そして自分の立場を擁護し、相手を論破するべく、議論を交わすのである。ひろゆきが出演する場合、基本的には対戦相手が先に自らの立場を選択し、残った方の立場がひろゆきに割り当てられることになる。

 当日の問いは事前に知らされない。したがって、ひろゆきは自分がどのような問いにどのような立場で議論することになるかが分からない状態で、ディベートに赴くことになる。そのため彼にはまったく事前準備をすることができない。そうであるにもかかわらず、彼は8割近い確率でディベートに勝利しているという。