
諸富 徹
トランプ減税法案は減収分の財源を関税収入と歳出削減で賄う内容だが、減税の恩恵が富裕層に偏る一方、関税引き上げによる物価上昇の負担はトランプ支持層に多い低中所得層に重くなる。歳出削減では共和党内で対立があり、「トランプ減税」実現までには紆余(うよ)曲折が予想される。

「103万円の壁」撤廃問題は、所得税の課税最低ラインを年収に応じて調整し160万円に引き上げる与党案が成立する見通しだ。「手取り収入を増やす」として野党が提案した政策の議論が盛り上がった背景には格差拡大にもかかわらず財政の所得再分配機能が低下していることがある。だがこの問題は残ったままだ。

トランプ次期大統領はパリ協定再離脱などバイデン政権の気候変動政策の大転換を掲げるが、脱炭素投資を支援するインフレ抑制法廃止には地元がその恩恵を受ける共和党議員も反対している。企業の脱炭素の取り組みも進んでおり、180度転換は難しいだろう。

G20財務相・中央銀行総裁会議で超富裕層への課税強化が合意され、保有資産に2%の税率で課税をする案などが検討される見通しだ。所得が一定水準まで増えると実効税率が下がって金持ちほど有利になっている税制のゆがみや富裕層がさまざまな課税逃れで所得に見合った税負担をしていない不公平への不満が多くの国で強まっているからだ。

国立大学の授業料値上げの動きや私学並みの「150万円」への引き上げの議論が出ている。是非を判断する根本には、高等教育の費用は受益者負担か公費負担か、教育拡充の成果は個人が享受するのか社会に還元されるべきかという問題があるが、日本社会の現状を考えれば公費負担による「無償化」を目指すべきだ。

電力を100%再生エネルギーで賄い、データセンター誘致やハウス栽培、路面電車の脱炭素化などで地域活性化につなげる取り組みが全国の73自治体で始まっている。脱炭素はコストがかかり地域の競争力や生活にマイナスだと言われてきたが、むしろ地域を発展させるツールになり始めている。

異次元の少子化対策の目玉、子育て支援金の財源の一部を医療保険料に上乗せ徴収することには賛否両論があるが、そもそも年金なども合わせた社会保険料負担は月額賃金の3割を超え限界が見え始めている。金融資産や所得を対象にしたより大きな構図での財源論議が必要だ。

太陽光発電事業は買い取り価格低下などで採算が悪化するが、企業や家庭での「自家消費モデル」拡大が見込まれ、余剰電力を集めて売買するサービスや蓄電池、ヒートポンプなどの需要増に合わせた異業種との融合などの新たな展開の好機にもなる。

「こども未来戦略方針」が掲げた育休取得や時短の際の給与支援は雇用保険加入者だけが対象だ。派遣やパートなどの非正規雇用や低所得で出産、子育てを断念したり躊躇したりしている、本当に支援が必要な人は抜け落ちている。

「GX推進法」の十分な効果が期待できないのは、産業界への配慮から石炭火力発電存続に固執、またEV導入に正面から取り組もうとしないからだ。電力と自動車という中核産業の脱炭素化の遅れは日本の競争力低下やガラパゴス化を招きかねない。

脱炭素化の枠組みである「GX推進法」が成立したが、具体的な効果や産業補助金の対象にする技術や製品も示されないなど「2030年温室効果ガス46%削減」目標の達成は担保されていないという大問題を抱える。

政府の「GX推進法案」は2020年代を助走期間としているが、欧米では20年代を脱炭素技術プロジェクトやビジネスの「勝負の時代」としている。日本は10年遅れで脱炭素経済移行や成長でも取り残される懸念がある。

税・社会保障のデジタル化のメリットを社会全体で享受する英仏の成功のポイントは、国民への給付を確実にすることや手続き簡素化など目的を明確にし制度の透明性と利便性を高めていることだ。

「10万円一律給付」などの混乱は税・社会保障のデジタル化の遅れを浮き彫りにした。マイナンバーカードに対して個人情報を把握される警戒感が強いが、社会保障給付などを必要な人に確実にできる「公共インフラ」として整備を急ぐ必要がある。

政府のカーボンプライシング案は「成長志向型」を掲げ産業界が受け入れやすい枠組みだが、排出量抑制のインセンティブが働きにくい。脱炭素が進まずGX経済移行による新たな成長にもつながらない懸念がある。

脱炭素化やウクライナ戦争で日本の電力は価格高騰と需給ひっ迫の「二重の危機」にある。岸田首相は原子力新増設の検討を指示したが、あまりに短期/供給側に偏った古色蒼然たる発想だ。

政府が脱炭素化の資金調達手段として掲げる「GX経済移行債」は、民間のESG投資を呼び込む狙いの新しい国債だが、償還の裏付けに「炭素税」などのカーボンプライシング導入の契機になりそうだ。

住宅や建築物の脱炭素化には省エネ基準を満たす技術を持たない中小工務店もあり課題は多いが、脱炭素化は住宅建築業界がエネルギーシステムを担うサービス産業化の契機になる。政府の後押しが重要だ。

岸田首相は「新しい資本主義」で人への投資を掲げるが、それだけでは経済停滞を解決できない。スウェーデンの「社会的投資国家」を学び、労働者が成長分野に移動できる支援を政府が行うべきだ。
