![建機 陥落危機 メーカー&商社“背水の陣”#7](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/e/4/650/img_e44db269fd992d7159ea38e31e4715f8338147.jpg)
中国メーカーの技術のキャッチアップに、世界最大手の巨人・米キャタピラーの横綱相撲、激化する米中貿易戦争――。建機を巡る市場環境はまさに風雲急を告げている。第2次トランプ政権が発足早々に打ち出した関税政策も波乱要因だ。カナダとメキシコは報復関税をかける方針を示し、製造業を中心に多くの企業が振り回されている。特集『建機 陥落危機 メーカー&商社“背水の陣”』の#7では、コマツの小川啓之社長に、日系メーカーが生き抜くための戦略を尋ねた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
中国メーカーにずばり「耐久性で勝る」
将来の競争力の鍵となるサービスの差別化戦略は?
――第2次トランプ政権の発足後、関税政策が目まぐるしく動いています。
コマツは米国においては「輸出企業」です。超大型のマイニング機械は主に米国で生産しています。25%の関税がかかったのは鉄鋼とアルミニウムの素材です。米国工場で調達しているのは加工品なので、今のところ影響はゼロです。
マイニング機械は米国、カナダ、中南米、豪州、アフリカでの需要が8~9割を占め、特にカナダは大きい。ですから今後、カナダへの輸出で影響があると思います。
――カナダは米国に報復関税をかける方針です。どんな影響が予想されますか。
マイニング機械は生産財としての要素が非常に強い。いったん稼働が止まると鉱山会社にはものすごくダメージがあります。機械をカナダで造ることはできないので、鉱山会社は必要ならば米国から購入せざるを得ません。関税は輸入者が負担しますから、基本的には代理店が負担します。ただ代理店が25%全てを負担することはあり得ないので、建機メーカーと鉱山会社に転嫁するわけですね。つまり、25%を3者でどうシェアするのかです。
一番怖いのは、代理店が機械を買うのをやめて需要が縮むことですが、マイニング機械は供給元が少ないので、鉱山会社としては事業継続のために買わざるを得ないでしょう。もしかすると25%全てを鉱山会社にお願いすることになるかもしれない。
鉱山会社の先にもさらにお客さんがいます。例えば鉱物の価格を25%上げられれば問題ない。まだ議論になっていませんが、どこまで先のお客さんまで負担を受け入れてもらえるか。サプライチェーン全体で見ないと答えは出ません。影響を受けるのはコマツだけでなく、米キャタピラーも同じなので、関税によって競争力が落ちることはないでしょう。
――中国メーカーの現在の実力をどう評価しますか。
中国勢との競争は大きな課題です。機械の性能は国際的にも遜色ないものになっています。2010年ごろに4兆元の公共投資がありました。15年には産業政策「中国製造2025」が出され、先端企業を育成するイメージでしたが、建機のようなレガシー産業も強化しました。一帯一路以降の17年は特に顕著でした。19年以降は海外進出の動きも目覚ましいものがあります。
――なぜ急成長できたと思いますか。
元々、エンジンや油圧機器などのキーコンポーネントは日本の専業メーカーから調達していました。10年ごろはまだコンポーネントの性能を車体に反映させるのが難しかったのでしょう。建機も自動車と同じで個別に技術を最適化する「すり合わせ技術」があり、車体の性能が追い付かなかった。それから15年たって、彼らは勉強しました。日本の技術者もかなりヘッドハンティングしていました。
――ずばり、機械の品質で並ばれたと思いますか?
耐久性と信頼性ではまだまだコマツが勝っていると、私は自信を持っています。インフラが整備された日米欧などの「伝統市場」では耐久性と信頼性が競争軸になるので、コマツが選ばれる理由があるでしょう。
それに機械のラインアップも違います。中国メーカーの主力は油圧ショベル。対してわれわれはフルラインメーカーなので、競合しているのは一部分です。現状では中国メーカーは大型のマイニング機械も造っていない。鉱山会社との関係性を構築するには時間がかかるので、参入障壁は高いと思います。
次ページでは、中国メーカーと巨人・キャタピラーに対抗するソリューション戦略について、小川社長が余すことなく語り尽くす。