その無人販売所は、畑の脇に設置されていて、簡単な日除けの屋根の下に棚があるタイプだったそうです。そこに野菜が並んでいて、値段はすべて100円。棚の隅に少し錆びた金属製のクッキーの缶が置いてあって、蓋には貯金箱のように硬貨を入れるための細長い穴が開けられていたそうです。

「こんな時代に人々はちゃんとお金を入れるのだろうか」と思った友人は、少し離れたところから無人販売所を観察したそうです。その結果、ほとんどの人がちゃんと缶にお金を入れていたそうです。野菜を育てている人の顔が思い浮かぶからでしょうか。面識の力ですね。

 ところが夕方ごろ、ひとりの男子中学生が通りかかり、周囲に人がいないことを確認してから缶の蓋を開け、中から硬貨を数枚取り出したそうです。その手つきはかなり慣れていて、定期的に缶から硬貨を盗んでいるようだったと友人は言います。缶ごと盗むと犯人探しが始まるかもしれません。入っている硬貨をすべて盗んでしまうと対策されてしまうでしょう。だから、毎回少しずつ硬貨を盗っているのかもしれません。

防犯無人販売所になくて
無人販売所にあったもの

 彼はそのお金を何に使うのでしょうか。気になった友人は彼を目で追ってみたそうです。そうすると、彼は近くの道端にある自動販売機でジュースを買って、それを飲み干して横にあるゴミ入れに捨てたそうです。

 盗ったお金は持ち帰らず、すぐに使う。ペットボトルもすぐに捨てる。何も持ち帰らない。それなら親にバレる心配もありませんね。この中学生、なかなかの智恵者です。

 後日、友人はその日の興味深い出来事を、畑の持ち主に伝えたそうです。ところが、持ち主はかなり前からそのことを知っていたらしいのです。知っているけれどもそのままにしている。

 その中学生は家が遠く、夏は暑いのに長時間歩いて学校まで通っている。「ジュースを飲むお金くらいは出してやりたい」というのです。