2023年には、前立腺肥大症専用のロボット支援手術・アクアブレーション治療が保険適用になった。医師が患者の前立腺をエコー(超音波)の画像で観察しながら切除範囲を設定し、ロボットが尿道周囲の前立腺組織をジェット水流で自動切除し、医師が止血を行う方法だ。
従来の手術よりも短時間で済み、体への負担や合併症が少なく、大きい前立腺にも対応できるのがメリットとされる。ただし、ロボット機器が高額であることもあって、導入している医療機関はまだ少ない。
「前立腺吊り上げ術」「経尿道的水蒸気治療」
負担が少ない新治療が登場
一方で、注目を集めているのが、出血や合併症のリスクが高く従来の手術を受けるのが難しい患者を対象に、2022年に保険適用になった体への負担が少ない2種類の治療法だ。
一つは、特殊な内視鏡を尿道から入れ、長さ8㎜の針状のインプラントを肥大化した前立腺組織を吊り上げるように埋め込み、尿道を広げる「経尿道的前立腺吊り上げ術」だ。手術時間は15分程度で、ほかの手術に比べて排尿障害の改善効果が早く表れるのがメリットとされる。ただ、前立腺の大きさが80mLを超えていたり、尿路感染症や血尿があったりする人には実施できない。
もう一つが、尿道から内視鏡を入れ、その先端に取り付けた針を肥大した前立腺に刺し、103℃の水蒸気を当てて組織を壊死させる「経尿道的水蒸気治療」。高温の水蒸気を2~6回噴霧することで肥大化した前立腺組織が壊死して尿道が広がり、排尿障害が改善される。施術時間は10分程度で、再手術が必要になる確率は4~5%と低い。
経尿道的前立腺吊り上げ術と経尿道的水蒸気治療は、体への負担が少なく、日帰りか1泊2日程度の入院で実施できるのがメリットだ。
「経尿道的前立腺吊り上げ術や経尿道的水蒸気治療では射精障害が起こらないのも大きなメリットです。日本で保険適用になっているのは、出血や合併症のリスクが高く従来の手術が難しい人ですが、欧米ではむしろ50代~60代の男性が積極的にこれらの治療を選択しています。
前立腺肥大による排尿トラブルは自尊心にも影響しますが、治療選択肢が増えてきています。『もう年だから』などと放置せずに泌尿器科を受診し、ご自分の生活に合った治療を受けてください」
(監修/日本大学医学部泌尿器科主任教授 高橋 悟)