稲盛和夫翁が説いた
「成功の方程式」とは?

 稲盛流「成功の方程式」も、よく知られている。人生・仕事の成功は、考え方と熱意と能力の掛け算で決まるというものである。

 人生・仕事の結果 = 考え方 × 熱意 × 能力

 このうち「考え方」は、正しく生きる姿勢そのものだ。京セラにおいては「フィロソフィー」として共有化されている。筆者が「エシックス(倫理)」と呼ぶものと同義である。そして高い志(パーパス)を、燃えるような熱意(パッション)で実現していく。この信念こそが、あらゆる障害を乗り越えて「真実一路」を突き進むエネルギーとなる。

 稲盛翁は、日本経済新聞の「私の履歴書」の中で、少年期に結核に侵された時のエピソードを披露している。病床で隣家の女性にすすめられた谷口雅春の『生命の実相』を読み、心の持ちよう(信化)が真実として現れる(真化)ことに気づかされたという。

 そして3つ目の「能力」は、熱意が魂のレベルまで高まれば、おのずと備わってくるという。それを稲盛翁は「未来進行形の能力」と表現する。

 スキル(Skill)は、ウィル(Will)の従属関数でしかない。いま日本企業は社員のリスキリングに躍起になっているが、勘違いもはなはだしい。経営の役割は、社員のウィル(考え方と熱意)をいかにして高められるかにある。

 パーパス(志)とプリンシプル(判断軸)を社員に実装できれば、スキル(能力)は社員一人ひとりがいくらでも高めることができるはずだ。人財開発ではなく組織開発こそが、経営の一丁目一番地である。

 稲盛流経営は、信念を共有することの大切さを改めて教えてくれる。マスコミやコンサルタント、政府や御用学者の通説に惑わされず、この基本的な教えに立ち戻る必要がある。「信化」が「真化」につながるという良質な日本経営の信念に、いまこそ立ち戻らなければならない。そこにこそ、シン日本流の真価が問われているのである。

【引用文献一覧】
・注1:松下幸之助『人を活かす経営』PHP研究所
・注2:松下幸之助『人生心得帖』PHP研究所
・注3:PHP研究所編『[新装版]松下幸之助 日々のことば』PHP研究所
・注4:松下幸之助『道をひらく』PHP研究所