リーダーシップ研究で有名なジェームズ・クーゼス(編集部注/サンタクララ大学教授)とバリー・ポスナー(編集部注/バリー・Z・ポスナー。サンタクララ大学教授)は、『信頼のリーダーシップ』(日本生産性本部)という本の中で、リーダーシップはリーダーとフォロワーの関係の中に生まれると言っています。

 リーダーになると確かに、指示を与える力、報酬を与える力、罰を与える力を得ます。その力を行使すれば人を動かすことはできる。でもそれは権力で人を動かしているだけであって、リーダーシップを発揮しているとは言えない。

フォロワーがいなければ
リーダーは存在できない

 リーダーシップは、リーダーが示すもの(ビジョンや哲学)、リーダー自身が持っているもの(知識やノウハウ、人としての魅力)に共感し、この人だったら信頼できる、一緒に頑張りたいと思ったときに、リーダーとフォロワーとの関係の中に生まれるのだというのです。

 すなわち、いくら自分が強い思い、ビジョン、専門性、ノウハウ、人間性を持っていたとしても、それを必要とし、喜んでついていきたい、一緒に頑張りたいと思う人がいなければ、そこにはリーダーシップは存在していないということになるのです。

 そう考えると、大切なのは個人がリーダーシップを取ることではなく、みんなで前向きに踏み出していく、踏み出したくなる気持ちが自然と湧いてくる、そんな関係性をつくることなのではないでしょうか。

 実は、リーダーシップ論でも大きな転換が起きています。

 リーダーシップ論を見ると、いろいろな理論が出てきます。業務処理型リーダーシップ、変革型リーダーシップ、カリスマ型リーダーシップ、サーバントリーダーシップ……。これらはすべて、リーダーが部下やメンバーにどう働きかけ、どう意図する方向に人を導くか、その働きかけのスタイルを提示したものです。リーダーは他者に影響を与え、動かす存在という思想が土台にあります。

 でも、多様性の時代、リーダーが一人ひとりに合った働きかけをして、一人ひとりを導くというのが、本当に現実的なのか。結局それは、リーダーに依存する人、主体性を失う人をつくりだすだけなのではないのか。むしろ大切なのは、リーダー自身のあり方を通じて、一人ひとりが安心して踏み出していける環境、関係をつくることではないか。