結局、夫が調べてきた塾に子どもを入れることになったのだが、そこには仲のいい同級生は誰も通っておらず、子どもが不安を覚えたようだ。そのことを妻が夫に伝えても、夫は「お前は全然わかってない」と聞く耳を持たなかった。

 しかも、塾の宿題は前々日までにやっておかなければならないというのが夫の持論で、子どもに「塾の宿題をやったか?」と口うるさく尋ねて、確認する。

 もし、やっていないことがわかると、激怒して「そんなことでは、ダメだ。将来のことを考えているのか」「せっかく塾に通っているのに、宿題をやってなかったらダメじゃないか」などとくどくど説教する。そのため、子どもは畏縮してしまっている。

 妻が見かねて取りなそうとするのだが、夫は全然聞き入れない。「お前の教育がダメだから、こんなことになるんだ。専業主婦で、ずっと家にいるんだから、子どもの勉強くらい、ちゃんと見てやったらどうだ」と、今度は妻への説教が始まる。

「オレは本当は優秀な人間なんだ」
ダメ社員扱いされた夫の心の歪み

 一般にダメ出しするのは、相手のやり方に問題があると感じ、それではうまくいかないと思うからだろうが、それ以外の要因がからんでいることもある。相手のやり方を否定することによって、自身の優位性を誇示したいという欲望が潜んでいるかもしれない。

 また、自分のダメ出しによって相手がこれまでのやり方を変えれば、自身の影響力も実感できるだろう。過度ともいえるほどダメ出しを繰り返す人が、優位性を誇示したいとか影響力を実感したいとかいう欲望を胸中に秘めていることは少なくない。

 ここで取り上げた夫にも、同様の欲望がかいま見える。その一因として、夫の職場環境の変化があるのかもしれない。夫はもの作りに携わりたいという気持ちが強く、中堅の電気機器メーカーに就職した。その会社では、いくつかの製品開発に参加することができ、生き生きした顔で働いていたそうだ。

 ところが、会社の業績が悪化したため、経営陣は同業のもっと大きなメーカーへの吸収合併を選択した。