吸収合併後の上司は吸収合併した側の大きな会社の人間なので、その会社のやり方に合わせるよう指示した。そうしなければいけないと頭ではわかっていても、就職してから20年以上も前の会社でやってきたことが体に染みついているのか、夫はなかなか慣れられず、うまくできなかったようだ。
そのたびに上司から「こんなこともできないのか」「これではダメじゃないか」などと叱責されたらしい。その頃から深酒が増え、上司のダメ出しに対して愚痴をこぼすようになり、夫自身の家庭内でのダメ出しも始まった。
追い込まれた夫の自己防衛本能が発動!
弱い者はさらに弱い者を叩き始める
こうした経緯を振り返ると、夫は吸収合併後に上司から繰り返されたダメ出しのせいで自尊心を傷つけられ、自身の存在価値を否定されたように感じて屈辱感を覚えた可能性が高い。同時に、上司に対して怒りと敵意を募らせ、「この会社でやっていけるのか」という不安にもさいなまれたはずだ。
このようなネガティブな感情は心身をむしばみ、場合によっては病気の原因になりかねない。だから、何とかして払拭するか克服するかしなければ、わが身を守れない。
そのために用いられるのが「攻撃者との同一視」である。
これは防衛メカニズムの一種であり、自分に不安を与え、怒りと敵意をかき立てた強い相手がしたのと同じ嫌な仕打ちを、今度は自分より弱い相手に対して繰り返すことを指す。
つまり、攻撃者を模倣し、その攻撃手法を取り入れることによって、不快な経験を乗り越え、自己肯定感を取り戻そうとする。この過程で、本人の立ち位置が攻撃を受ける側から攻撃を加える側へ、いいかえれば受動的立場から能動的立場へと変わる。
子どもの頃に親から虐待を受けていた人が、「あんな親には絶対なるまい」と誓っていたにもかかわらず、自分が親になってみたら幼い頃に受けたのと同じ虐待をわが子に繰り返すことがある。
このような虐待の連鎖は、「攻撃者との同一視」によって起きる。また、学校や職場でいじめられていた人が、自分が強い立場になったら、弱い相手に攻撃の矛先(ほこさき)を向け、同様のいじめを繰り返す連鎖も、同じメカニズムによると考えられる。