実はこのアイデア自体は1920年代には提案されていました。実際に計算するとその確率はゼロではないものの、実際上はゼロと同じで理論的には起こりえないのですが、彼らはそれが起こったと主張したのです。
その発表では、莫大な利益につながる特許や同様の研究をしていた競合大学との先有権争いなども絡み、実験の詳細を公表しませんでした。
多くの核融合専門家は
低温核融合を認めていない
重水素同士の融合には10億度という温度が必要ですが、この方法ではそれよりはるかに低い温度で容易に起こるというのですから、もしこれが本当ならその社会的意義の大きさははかりしれません。
そのため、もちろん多くの研究者が彼らの実験の再現に取り組みましたが、そのほとんどは否定的な結果でした。
その結果、彼らの結論は間違いであるとされ、ポンズはユタ大学を解雇されました。フランスに移りフライシュマンとともに1998年まで研究を続けましたが、その後消息不明となっています。
彼らの現象は低温核融合(日本では常温核融合と呼ばれていますが、ここで英語のcold fusionの直訳を使います)と呼ばれ、その研究は「20世紀最大の科学スキャンダル」と呼ばれています。
しかし、低温核融合が実現できれば人類の未来を変えるほどの魅力をもつため、少数の科学者によって研究が継続されています。

日本でも通産省による新水素エネルギー実証実験プロジェクトが1994年から1999年にかけておこなわれましたが、フライシュマンとポンズの観測した現象は確認できなかったという最終報告が出されています。
また2015年にはグーグルが1000万ドルの資金提供をして低温核融合研究を支援しましたが、否定的な結論を出しています。
現在でも一部の研究機関では低温核融合の研究が続けられていて、核融合が起こったという主張もされていますが、まだ多くの核融合専門家は認めていないのが現状です。