トンネル効果とは量子力学の世界に特徴的な現象で、大きなエネルギーのクーロン障壁を、それより低いエネルギーをもった粒子がトンネルを通るようにすり抜けてしまうことです。
これがあるため、太陽のような「低温」環境でも核融合反応は起こるのです。
とはいえ、このトンネル効果の確率は非常に低く、太陽のような低温環境では1個の陽子に対して約50億年に一度しか核融合反応は起こりません。
確率とはある事象の起こりうる可能性で、非常にたくさんの数を観測すれば確率は高くなります。
そして、太陽中心部には10^56(※10の56乗)個程度もの莫大な数の陽子があります。そのため、50億年に一度しか起こらない核融合反応が毎秒10^30(※10の30乗)回くらい起こっているのです。
もしミクロの世界の法則が量子力学でなく古典力学だったとしたら、星が輝くことはなかったでしょう。
大センセーションを巻き起こした
摂氏1000度の「低温核融合」
夢のエネルギー源である核融合ですが、超高温・高圧のプラズマ状態を安定的に維持するなど技術的な困難も大きく、その実現にはまだ相当の時間がかかりそうです。
1989年、摂氏1000度程度の「低温」で核融合が起こると主張する研究が発表され、大センセーションを巻き起こしました。
当時、イギリスのサウサンプトン大学にいたマーティン・フライシュマンとアメリカのユタ大学にいたスタンレー・ポンズは、重水(重水素2つと酸素からなる水)を満たした容器にパラジウムとプラチナの電極を入れて、電流を流すことで水素原子をパラジウム電極に大量に吸収させて融合反応を引き起こす実験をおこないました。
その結果、投入したエネルギーの4倍のエネルギーが発生し、さらに核融合の結果生じる中性子やトリチウム、ガンマ線を検出したと発表したのです。
パラジウムは水素吸蔵金属とも呼ばれ、固体容積の1000倍もの水素を吸収します。
吸収された重水素はパラジウムの固体中でイオン化(電気的に中性の原子が、電子を失うか〔酸化〕とり込むか〔還元〕で、プラスの電荷をもつ陽イオン、あるいはマイナスの電荷をもつ陰イオン状態を作り出すこと。この場合は陽イオン化)するため、重水素の原子核(陽イオン化した重水素)はお互いに接するほど近くなり、低温でもわずかな確率でトンネル効果によって融合が起こると考えたのです。