ただしアリスにも知られたくない情報です。そもそもアリスがクリスの量子オセロCを見た瞬間に白か黒の状態になってしまい、元の情報(重ね合わせの状態)が消えてしまうので、見てはいけないのです。
「量子もつれ」を利用した
量子テレポーテーション
そこでアリスは量子もつれ(編集部注/一方の状態と他方の状態に何らかの決まった関係がある状態。量子もつれ状態にある2つの粒子は、まるで双子のように、一方の状態が変化すると、もう一方もそれに応じて変化する)を利用することを考えます。
量子もつれ状態にある2枚の量子オセロA、Bを用意して、オセロBをあらかじめボブに送っておきます。たとえば観測すれば、A、Bは必ず同じ色になるとしましょう。それが白なのか黒なのかはわかりません(図5)。

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ただし、アリスは自分の量子オセロAを見ることはしません。見てしまえば、ボブの量子オセロBの色はクリスの量子オセロCの色と無関係に確定してしまうからです。
ここで、アリスは自分のオセロAとクリスのオセロCに対してある操作をします。具体的な操作は、実際にどんなものを使うかによります(ここでは量子オセロで話をしていますが、実際に利用されるのは光子や電子などです。たとえば光子の場合は、2つの光子を同時に半透明の鏡にぶつけたり、ある種の結晶を通過すると、それらは量子もつれ状態になることが知られています。量子オセロの場合もそのような操作ができるとします)。
すると、アリスのオセロAとクリスのオセロCは量子もつれ状態になります。その瞬間にボブのオセロBも量子もつれとなり、その状態にもある変化が起こります。その変化は、アリスとクリスのオセロA、Cの量子もつれ状態によって決まります。
もう少しくわしくいうと、アリスとクリスのオセロA、Cの量子もつれ状態は、「両方とも白」「両方とも黒」「Aが白でCが黒」「Aが黒でCが白」の4つの状態のどれかです(これはオセロを見ればそうなるということで、実際にそれぞれの色になっているわけではありません。1つ1つのオセロの状態はあくまで確定していないのです。量子もつれ状態にするということは、おのおののオセロの状態は手つかずのままに、それらの間の関係だけを決めることです)。