量子とは電光掲示板の明かりのようなものであり、電光掲示板が量子のいる空間、電球は空間に埋め込まれた量子の性質のようなものです。この性質を「場」といいます。光子なら光子場、電子なら電子場です。空間には何もないように見えても、さまざまな量子の場がそなわっているのです。

 量子テレポーテーションとは電光掲示板のある場所の明かり(状態)が、別の離れた場所に移動したようなものです。ただし、そのためには元の場所と移動先の間が量子もつれ状態になっていなければなりません。

 ということで、先の量子オセロの例でいえば、本物の量子オセロCが転送され、元の量子オセロは残っていますがもはや元の状態は消えていて、その意味で本物ではないのです。

量子テレポーテーションの
転送効率は60%超

 量子テレポーテーションの仕組みは、1993年に発見されています。そして1997年、オーストリア、インスブルック大学のアントン・ツァイリンガーのグループが、実際に、量子として光子、送る情報として光子のスピンの重ね合わせを使った実験をおこない、成功しました。

 ただしこの実験では転送効率が非常に低く、たとえば100個の光子の量子状態(その量子のあり方。ここでは光子の量子もつれの状態)を送っても、せいぜい1個の情報しか正しく転送されませんでした。

 翌1998年、当時カリフォルニア工科大学にいた古澤明が、より効率のよい量子テレポーテーションに成功しています。

 この方法は、やはり量子として光子を使いますが、送る情報はスピンの重ね合わせではなく、光子の波動としての性質を利用したもので、特に量子コンピュータへの応用に役立つものです。

 その後、彼らの方法はスピンの重ね合わせにも適用できるように拡張され、転送効率は60%以上にも達しており、光を使った量子コンピュータの実現への期待が高まっています。

 では、人間の場合はどうでしょう。SFの『スタートレック』では、転送装置に入って「エナジャイズ」などと言うと元の人間が消えて、別の場所に現れます。ウィキペディアを見ると、「物質を量子レベルにまで分解し、『転送ビーム』に乗せてエネルギー波として運び、目的地で再物質化するというもの」という設定のようです。