この4つの可能性に対応して、ボブのオセロBの状態が4通りの白の状態と黒の状態の重ね合わせのどれかに変わるのです。
白と黒の重ね合わせの割合は無数にありうるのですが、たった4通りに絞られます。しかもその中の1つがもともとクリスのオセロCの状態(30%が白で70%が黒)になっています。確率4分の1で、元のクリスの情報が得られるのですが、もちろんそれで十分ではありません。
ほかの重ね合わせ状態(たとえば70%が白で30%が黒など)は、オセロCの元の状態ではありませんが、アリスとクリスのもつれ状態の1つとある決まった関係にあるのです。残りの2つの状態も同じように、アリスとクリスのもつれ状態に関係しています。
したがってボブがアリスとクリスのもつれ状態を知ることができれば、適当な操作をほどこすことによって、自分の持っているオセロをクリスと同じ状態にできるのです。
しかし誰かがクリスの情報を盗もうとして、アリスとクリスの量子もつれを見てしまうと、その瞬間に量子もつれ状態が壊れてしまい、送りたい情報は消えてしまいます。盗み見ることは原理的にできません。
量子テレポーテーションで
転送されたものは「本物」か?
ここまで来たら、次に古典的な通信方法を利用します。アリスはボブに、自分のオセロAとクリスのオセロCの量子もつれ状態が4つの可能性のうちのどれかであることを、メールや無線で伝えます。
ボブがその情報をもとにある操作を自分のオセロBにほどこすと、オセロBがクリスのもっていたオセロCの状態に変わるのです。
これが量子テレポーテーションです。
古典通信(編集部注/スマートフォンやインターネットなど、現代人が日常的に利用している通信技術)を利用することから、この転送は瞬時ではなく、光速以下でしか送れません。
しかしどんなに遠いところへでも、そしてどんなに厳重に閉じ込められた部屋からでも、盗まれることなく情報を送ることができるのです。
超能力では透視とか千里眼といった能力が話題になることがありますが、量子力学ではそれが実現しているのです。ただし量子もつれという仕掛けがあっての話です。