“アンパンマンの声”戸田恵子が、朝ドラで“アンパンマン感ゼロ”の理由第76回より

薪鉄子を演じて
アンパンマンはにおわせなかった理由

 オファーを受けたときの心情を戸田さんは「『あんぱん』というドラマができることを、やなせ先生が生きていたらどんなにお喜びかな、と思いましたし、私にもオファーがあったことを本当に嬉しく思いました」と語る。

 演じる役は、ヒロイン・のぶ(今田美桜)に影響を与える高知出身の代議士・薪鉄子。「なめたらいかんぜよ」と活きのいい土佐弁を吐く、正義感にあふれた人物に造形されている。

 名前はアンパンマンのキャラクター・てっかのマキちゃんをもじっているが、彼女がモデルなわけではないと前置きしながら、戸田さんは薪鉄子を演じるうえで大事にしたことを教えてくれた。

「戦後、復興を目指すにあたり、まず戦災孤児に関する政策に重きを置いて活動している人物です。子どもに対する思いがのぶとはすごく響き合うものがあったと思うので、そこを彼女の思いの中心として演じようと考えました。

 中園ミホさんの書いた台本にそう書いてありましたので、とにかく子どもたちに幸せを分配していくということを熱心に活動しているのだと思って演じました」

 ドラマでは、のぶが悪気なく子どもに戦争を肯定するように教育し、間接的に戦災孤児たちを生み出してしまった。そのことを「間違えた」と深く反省し、戦争で何もかも失ってしまった子どもたちのために何かしたいと考える。未来ある子どもたちのためにどうすることがふさわしいか。それを模索する物語にもなっている。

「私個人も、子どものためになることをするのは一番大事なことであろうと共感しましたし、薪ものぶもそれこそが一番の正義であると、子どものために活動することが自分たちの使命だと感じていたのではないかなと思います」

 戸田さんが出演ということで、アンパンマンを思わせるセリフや仕草が薪にはあるのかと期待もするが、
「アンパンマンは全く関係なく演じました」ときっぱり。

「今回、たまたまアンパンマンの作者のご夫妻のお話に、アンパンマン役をやっている私も参加させていただき、とても嬉しく思いましたが、そこは一役者として選んでくださったと思っていますし、私自身も一役者として薪鉄子を演じました」

 外観もキャラクターもアンパンマンではない。アンパンマンを想起させるような賑やかしキャラではなく、戦後を生きたひとりの登場人物をしっかり演じる。でもそこに子どもへの思いを一番の正義と考えるというアンパンマンの哲学が通奏低音のように響く。戸田恵子でなければできないことだ。