“アンパンマンの声”戸田恵子が、朝ドラで“アンパンマン感ゼロ”の理由第78回より

壁にぶつかったとき
やなせ先生に言われたこと

 アンパンマンをはじめとして、ゲゲゲの鬼太郎やガンダムのマチルダ中尉など、人気アニメのキャラクターの声を多く担当するのみならず、歌手として、俳優としても活躍している戸田さん。舞台俳優としては、2024年に、三谷幸喜の構成、演出作で米国の音楽の殿堂「カーネギーホール」のリサイタルホールの舞台にも立っている。

 そこに至るまでには、多くの困難や絶望があっただろう。そんなとき、戸田さんを突き動かしてきたものは何だろう。

「私が何か迷ったり困ったり壁にぶつかったとき、やなせさんに『戸田さん、人が喜ぶことをやりなさい』と言われたことがあります。

 やなせさんには『人生は喜ばせごっこ』という言葉がありまして、まさにそれですよね。それ以来、誰かが喜ぶことをやるべきだ、ということは常に私も心がけるようにはしていて、何かあったときは、一瞬立ち止まってそれを考えるようにしています。

 わかっていても、なかなかそうもできないときもありますが。人に尽くす時間を取れるのであればできる限り取ろうと。他者から見たら、あくせくしていると思われるかもしれないけれど、寸暇を惜しんで、誰かに尽くそうと思うんです。

 それは些細な声がけでもいいんです。例えば、友人が舞台やテレビで演じているのを見たら、必ず感想を伝えるとか。そんな小さなことをひとつでもやれたらいいなと思っています」

「人生は喜ばせごっこ」とみんながそういうふうに思っていれば、諍いは起こらない。そうやなせさんは言っていたという。「先生のおっしゃっていたことは本当にそうだなと思って、私もなるべくそれに近づけるように思っています」

 戸田さんはやなせさんを「恩師」のように思っている。「アンパンマン」のアニメが始まった1988年からやなせさんが亡くなる2013年まで長い交流があった。やなせさんのことで印象に残っているのは、最後に会ったときのこと。亡くなる半年くらい前のことだ。