連休明けの銀行で
不正発覚が増えるワケ
銀行員が休暇を取る時は、休暇届に行き先と連絡先を書くほか、取引先との約束事項や仕掛かり案件の内容などを、引き継ぎ書として課長に報告してから休みを取ることが定められている。
さらに、飛行機に乗る場合は行き先と航路、航空会社名と便名を記載しなければならない。当時は重大な旅客機墜落事故が続いた印象があり、たくさんの乗客が犠牲になったニュースを目にする機会が多かった。
行員の安否確認のため、行き先や便名の記載を求められていたのではないか…と、今になって振り返る。私は馬鹿正直に旅行会社の旅程をそのままコピーし、引き継ぎ書に添付していた。
こんなプライバシーのカケラもない職場で、さらに気を遣わなくてはならないことがあった。行き先を明らかにするため、同僚全員に土産を買って帰らなくてはならないのだ。これがいちいち面倒なのである。当時はほとんどの男性行員が喫煙者だったので、免税店で日本製タバコを買って配ると喜ばれた。
そして、とにかく休みを取りにくい職種である。取引先のデータが集約管理されていなかった時代なので、休みの時に不測の事態が起きれば、お手上げになってしまうからだ。
最も厄介なのは融資先の破綻だ。経営者が夜逃げをするのは、ドラマや映画の世界だけではない。これぞ「銀行あるある」だ。口うるさい先輩から言われたことがある。
「ええか。休暇中でも、午後2時半になったら課長か副支店長に電話せえよ。『お休みいただいてます。私の担当先で問題はございますか?』って聞くんや」
私は言われた通りに毎日電話をした。忘れてはいけないとデジタル腕時計のアラームをセットし、テレホンカードの残高を確かめてから旅行に出かけた。心の底から休暇を楽しめるはずもなく、休んだ気になどなれなかった。
1日の所定労働時間が8時間であれば、最低でも1年で104日の休暇を取らなくてはならないと労働法で定められている。もちろん、銀行も同じである。ただし、銀行の場合は行員の健康を守ることだけを目的としていない。行員が不正を犯していないか、徹底的に調べ上げることに費やされる。
連休中や連休明けになると不正の発覚が増えるのは、銀行特有の話かも知れない。休暇中に顧客から「個人的に担当者へ金を貸しているが返してこない」と相談があり、不正の発覚につながったこともあるそうだ。
行員の休暇中、直属の課長は合鍵を使い、机やロッカーを開ける。そして、手続きに則らずに顧客から預かっている物件はないか、案件を報告や処理をせずに握り込んでいないか、顧客との癒着はないか、身辺を調べる時間に充てる。
一方、課長が合鍵を使って悪用することはないのか。そのリスクはゼロではない。だから課長も、支店長、副支店長、本部の監査部から調べ上げられる。中間管理職である課長の立場は、どこの業界においてもとかく辛いものだ。