裏表の関係にある「ジョブ型雇用」と「キャリア自律」

「ジョブ型雇用」も「メンバーシップ型雇用」も、企業視点からの議論が多くなる。それに対し、働く側の視点から近年クローズアップされているのが「キャリア自律」だ。「キャリア自律」とは、従業員が自らのキャリアについて主体的に考え、キャリア形成に自ら取り組んでいくことを指し、1990年代後半にアメリカで生まれたとされている。「ジョブ型雇用」と、そうした「キャリア自律」は、裏表の関係にあるともいえる。

守島  「キャリア自律」は30年ほど前から日本にも紹介され、人材育成や採用の場面で参考にされてきました。ただ、その理解や定着があまり進まなかったというのが私の印象です。

 例えば、Z世代は「キャリア意識が高い」といわれますが、それは、「人材市場における価値を高めて、より条件のよい企業へ自由に転職できるようになる」といったイメージでの理解が強いようです。

「キャリア自律」は、「将来の綿密なキャリアプランを描くこと」という誤解もあります。将来のキャリアについて詳細な計画を立てることは決して容易なことではありません。大まかな方向を定めることには意味があるとしても、計画どおりにいく可能性は低いでしょう。大切なのは、人生においていろいろなことが起こるなか、ある程度の計画を立てたうえで、「こうしたい」「これがやりたい」というものが現れたときに、それを手繰り寄せ、自分のキャリアに組み込んでいくことです。「計画された偶然性(planned happenstance)」と呼ぶキャリアの考え方です。

 実際、守島教授も、自身のキャリアをそのような姿勢で構築してきたようだ。

守島 高校時代にアメリカに留学したときに、「将来、何の仕事をやりたいのか?」を発表する授業があって、私は「大学教員」を挙げました。その後、日本の大学で社会心理学を専攻し、マーケティングのゼミに入ったのですが、私は、小さくても“自分の山”を築きたいと考え、指導教官に「マーケティングはもうやりません」と伝え、人的資源管理の先生を紹介いただいた結果、40年以上にわたって、人的資源管理論と組織行動論を研究するに至りました。