守島基博教授インタビュー【後編】「ジョブ型雇用、キャリア自律」で、人事担当者が目指すべきこと

これからの時代における“新しい「全員戦力化」”の手段として注目されているのが「ジョブ型雇用」だ。また、「全員戦力化」を社員の視点で見たときに欠かせないのが「キャリア自律」である。そうした意味で、「キャリア自律」は「ジョブ型雇用」と表裏一体のものといえるだろう。前回に続き、守島基博教授(学習院大学経済学部教授/一橋大学名誉教授)に、「ジョブ型雇用」と「キャリア自律」の関係について、さらに、“新しい「全員戦力化」”を実現するための人事部門の役割について、話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*当インタビュー記事は、守島基博教授インタビュー【前編】人材不足時代における、“新しい「全員戦力化」”の方法とは? の続きです。

“新しい「全員戦力化」”の手法ともなる「ジョブ型雇用」

“新しい「全員戦力化」”に向けた有力な手法のひとつが「ジョブ型雇用」(以下、ジョブ型)だ。ジョブ型は、ポジションごとに役割と責任を明確化し、それに適した人材を社内外に求めて、成果によって評価していく。例えば、富士通株式会社では、2020年から段階的にジョブ型への移行を進め、2026年度からは、新卒についてもジョブ型での通年採用に切り替えるという。ジョブ型は、今後も日本企業の間で広がっていくことは間違いない。

守島 ジョブ型のいちばんよいところは、「あなたにこれをやってほしい」「こういう成果を出してほしい」という成果責任が明確になることです。社員としては、与えられたミッションを遂行するために自分が持っているスキルやコンピテンシーのどこが活かせるのか、あるいは、何が不足しているのかを棚卸しして、仕事の方法を自ら考えたり、新たに学んでいったりする動機付けになります。

 かつての日本企業はそうではありませんでした。多能工、あるいは、ジェネラリストとして、いろいろな部門でさまざまな経験を求められがちでした。

 講演などで、私がよく紹介するエピソードですが、ある大手企業の部長が九州支社長の辞令を受けたので、役員に「九州に行って、何をすればいいんですか?」と聞いたら、「お客さんとモツ鍋でも食べて楽しくやってくれ!」と言われたそうです。それでもなんとかなったのが、以前の日本企業のすごかったところでしょう。

 しかし、これからの時代は、そうした方法でうまくいくはずがありません。組織として、「九州支社には○○の課題があるので、その原因を探ってほしい」「□□の成果を○年以内に出してほしい」といったことをきちんと伝えなければいけません。

守島基博教授インタビュー【後編】「ジョブ型雇用、キャリア自律」で、人事担当者が目指すべきこと

守島基博  Motohiro MORISHIMA

学習院大学 経済学部経営学科教授
一橋大学 名誉教授

1980年、慶應義塾大学卒業。86年、米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授、慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授・教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職、2020年より一橋大学名誉教授。専門は人的資源管理論・組織行動論。政府の審議会委員なども兼務。『人材マネジメント入門』『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』(共に日本経済新聞出版社)など、著書多数。

 ただ、「ジョブ型だけが正解というわけではなく、(ジョブ型が)すべての企業に適しているとは限らない」と守島教授は強調する。「ジョブ型雇用」と対比されるのが「メンバーシップ型雇用」(以下、メンバーシップ型)だが……。

守島 メンバーシップ型に“戦略的に”維持している企業もあります。メンバーシップ型を前提に新卒を一括採用し、入社後はさまざまな部署に異動させつつ、丁寧に育成していく方法です。メンバーシップ型なので、担当業務や役割は流動的ですが、企業として、雇用や人材育成へのコミットメントを明確にすることで社員のエンゲージメントを高め、「自分の人的資本を役立てていきたい」と思ってもらおうというわけです。

 このアプローチは、特に、中小企業をはじめとした家族的経営に向いているのではないでしょうか。そのときにポイントになるのは、アルバイトやパートなどの非正規従業員の扱いです。働き方改革で導入された同一労働同一賃金の原則をもとに、正規と非正規の境をなくし、パートやアルバイトまでを含めた「全員戦力化」が成功の鍵を握ります。