鬼の字が用いられた人の姓や地名も枚挙に暇がなく、それだけ日本の文化形成の過程において、鬼というキーワードが存在感を発揮してきたことになる。

 こうして鬼の考察を試みた際、岩手県盛岡市に興味深いスポットがある。JR上盛岡駅からほど近い、名須川町の「三ツ石神社」だ。

神社に祀られる巨大な岩
なぜ太い鎖が巻き付けられている?

 三ツ石神社は決して大きな神社ではなく、敷地内には社務所も見当たらない。しかし境内にはその名の通り、巨大な岩が3つ祀られていて、インパクトは実に強烈だ。

 苔むしたこの巨石は「三ツ石様」と呼ばれ、古くから信仰対象とされてきたもの。たしかに見るからに荘厳で、住宅地の中で何とも言えない存在感を醸している。

 よく観察すると、この巨石には太い鎖が巻き付けられているのがわかる。これはかつて、鬼を縛り付けるために使われた鎖を再現したものだという。

 伝承によれば、この地域ではその昔、「羅刹」という鬼が悪行三昧を働き、村人を困らせていた。どうにも困り果てた村人たちが、藁にもすがる思いで「三ツ石様、羅刹をこらしめてください」と願をかけたところ、羅刹はたちまちこの巨大な石に縛り付けられてしまったという。

 身動きの取れなくなった羅刹はすっかり観念し、二度と悪さをしないことを村人たちに誓い、許しを請うた。ちなみにこの地方には「不来方(こずかた)」という別称があるが、これは羅刹がもう二度と来ないと誓ったことに由来しているという説がある。

岩手県の名前、そういう意味だったのか…「不思議な由来」を知ってゾクっとした!三ツ石神社の境内に祀られる「三ツ石様」。もう1つの巨石は2つの石の背後に隠れている Photo by S.T.
岩手県の名前、そういう意味だったのか…「不思議な由来」を知ってゾクっとした!かつて羅刹を縛り付けたとされる特大の鎖 Photo by S.T.