日本が直面している、デジタル分野の最大の脅威とは?
F:たった今、我が国が直面しているデジタル分野における最大の脅威は何とお考えですか?例えばサイバー攻撃だったり、SNSによる情報操作だったり、いろいろありますが、目先で一番のリスクは何だとお考えですか?
平:やっぱり「重要インフラへのサイバー攻撃」ですよね。これはもう実際に起きていますからね。先ほども言いましたが、例えば2年前に名古屋港がサイバー攻撃で3日間止まりました。トヨタの物流にも影響が出たし、JALはDDoS攻撃によって一時運航ができなくなった。三菱UFJ銀行のネットバンキングもサイバー攻撃を受けたことが報じられています。金融、運輸、物流……あらゆる分野が狙われている。
中でも最近特に注意しているのが、「Living off the land(LotL)」という攻撃手法です。これは、外部からサーバーに侵入して、明白な攻撃の痕跡を残さずに内部の正規の機能を悪用して潜伏する、いわば“寄生型”の攻撃です。気づかれないように身を潜め、必要なときに一気に乗っ取る。痕跡がないので、侵入されたことすら分からない。こうした攻撃が、電力、通信、空港、銀行といった国家機能の中枢に仕掛けられる可能性がある。実際、海外ではすでに複数の深刻な事例が確認されています。
F:うぅ……聞くだけで恐ろしい。
平:そう。本当に恐ろしい。これは民間だけで対処できる問題ではありません。どこまでを国が守り、どこからが民間なのか。その線引きを含めた制度設計が必要です。だからこそ今、政府として体制を整えているのです。
そしてさらに怖いのが、民主主義への攻撃。選挙に対する介入です。
参院選2025で「外国勢力の介入」はあったのか
F:今回の参院選はどうだったのですか? 最近の選挙では、X(Twitter)とか切り抜き動画とか、SNSが選挙を大きく動かすようになった。今回、外国の勢力が、SNSを使って選挙に介入していたといった話もありますが……あれはまあヨタですよね?
平:あれは決してヨタ話ではありませんよ。今回の選挙は、SNSを通じて外国の勢力から介入された可能性が指摘されています。これは日本だけじゃなくて、世界共通で起きている話です。日本はむしろ、これまでG7で最後までやられなかった国といっていい。
いまサイバー空間で起きている最大の問題の一つは、民主主義そのものに対する信頼を揺るがすような“認知戦”です。つまり、ある外国政府が意図的に民主主義国家の政治的信頼を崩すように仕向ける。
たとえば、「政府は信頼できない」と思わせたり、「与党が過半数割れするように誘導する」「日米関係を引き裂く」「国際機関の信用を失墜させる」といった方向に世論を動かしたりするんです。
SNSを見ていると「不正選挙だ」「選挙なんて茶番だ」というような投稿がバズりますよね。あれは実は、外国勢力が介入に利用する典型的なテーマなんです。