新聞の連載に実名で登場していただくためには、短時間の取材だけでは足りません。どんなエピソードを持っているのか、どれだけ魅力的な体験の持ち主であるのかは、事前の下調べが必要になります。

 そこでアポを取る前にできるだけ本人の顔つきを確認するようにしました。たとえば、蕎麦屋を開業している人だったら店でお客さんとして食べてみる、コンサルタントの場合は事前にセミナーに参加してみるなどです。この活動が、取材をするかどうかを判断する際に大いに役立ちました。

さかなクンや淀川長治は
なぜ「いい顔」なのか

 私は子どもの頃に歓楽街で育ったのですが、周囲の商店主やアウトローの人たちは、相手の人を見極める基準は顔つきでした。私自身も小さい頃から「顔つきはウソをつかない」と思ってきました。それが取材でも生きてきたのかもしれません。

 そもそもなぜ「いい顔」なのでしょうか?いくつかの理由はあると思うのですが、一番は、好きなことをやっているということでしょう。

 著名人にたとえると、タレントのさかなクンや、映画評論家として一時代を築いた淀川長治さんなどです。

 この二人は、年代も境遇も大きく違いますが、魚や映画が「好きで好きでたまらないこと」が共通しています。二人の自伝を読むと、「周囲の人が助けてくれる」「偶然が次のステップを切り開く」などの共通したことが多いので驚きました。

 会社員からの転身者は、今までの組織からの束縛から離れて、自分がやりたいことや好きなことに舵を切れたことで「いい顔」になっていたのでしょう。

 経済的には会社員時代のほうが恵まれていた人が多く、将来の見通しも不安定になったはずです。しかしそれでも自分の持ち味を存分に生かしながら活動している人の顔は、総じて明るい。 

 好きなことをやっているというだけではなく、それが大切だと思うこと、意味があると感じること、誰かのためになっているという確信が「いい顔」の背景にあるからでしょう。

 逆に、自分自身が「いい顔」になれば、人が集まり、チャンスも広がるかもしれません。「いい顔」の最大公約数は、笑顔でしょう。「いい顔」はチャンスを呼び込みやすいとしたら、自分が「いい顔」になれることに取り組むことが人生を切り開く際のポイントであるかもしれません。

(構成/フリーライター 友清 哲)